――男と男の恋愛物語を愛する腐女子の存在は世間に浸透した。だが、実はもうひとつ、オタク女子の一大ジャンルがある。それが「夢女子」だ。「夢女子」とは、キャラクターと自分との恋愛をメインとした関係を思い描き楽しむ人々を指す。彼女たちは果たしてどんな“恋愛”をしているのか。本誌読者には決してうかがいしれない世界の深淵をのぞいてみよう。
(絵/菱沼彩子・THINKR)
[座談会参加者]
A…30代会社員。夢女子兼腐女子
B…30代会社員。夢女子
C…20代会社員。夢女子兼腐女子
――今回は、オタク女子の一大ジャンルでありながら世間的にはまだほとんど認知されていない「夢女子」というカルチャーについて、当事者の方たちに聞いてみたいということで集まっていただきました。まず前提として、「夢」というのは「自分とキャラクターの恋愛を妄想/二次創作で楽しむ」ものというとらえ方でいいんでしょうか?
A 「夢」の定義にはいろいろあるんですよ。「自分とキャラが恋愛する」だけではなく、「作中に存在しない自作のオリジナルキャラと既存キャラが恋愛する」ものもあります。
B 1対1の恋愛にならない「夢」もあります。キャラと友人関係になる「友情夢」や、最初は誤解から嫌われているんだけど、誤解が解ける「嫌われ夢」とか。
A 「嫌われ夢」は誤解が解けて恋仲になるわけでもない話も多いですよね。とにかくキャラクターとかかわり合いたい、自分の印象を残したい、って思いから来てるのかな?
B 主人公たちのグループがわちゃわちゃするのを、ただただ見ているだけの「傍観夢」もありますね。『ハリー・ポッター』でいうと、「ホグワーツに入りたい」「組み分け帽子で名前を呼ばれたい」みたいな願望ってあるじゃないですか。夢小説ならそういう気持ちも満たしてくれます。
――つまり、たとえばですが、私が『ONE PIECE』を読んで「麦わらの一味に入りたいな~」と思うのは……?
B 一般的にはそう呼ばないかもしれませんが、「夢」概念をインストールしている立場からすると、「夢だな」と思います。
C 本当に「夢」の概念って知られてないですよね。今でこそ腐女子と夢女子を両方やっていることを公言する人も増えましたが、昔はオタクの女の子の間でも、腐女子からはちょっと下に見られていたと思います。
A 「自分とキャラを恋愛させるのはキモい」みたいな感じがありましたよね。夢に限らず腐女子同士でも、自分を主体とした恋愛を語るのはタブーという空気があったかもしれません。「キャラ萌え語りはいいけど実際の彼氏の話はNG」という。
C 中高校生の頃は、特にそんな雰囲気がありましたよね。
――なるほど、ひとくちに「夢」といっても中身はいろいろなんですね。今回は「恋愛特集」なので、できるだけ恋愛面に特化した話を中心に聞いていきたいんですが、最初に好きになったキャラは誰ですか?
A 夢的な意味で好きになったのは『ホイッスル!』の藤代誠二が最初です……。
B 私は『ハリポタ』のルーピン先生【1】のガチ恋でした……。主人公が告白して「君は若い、もっとふさわしい男がいる」と最初はフラれるんですけど、最終的に結ばれる夢小説は100万回くらい読みましたね。
A 「ハリポタ親世代」だ!
B そう! ルーピン先生は狼男なので満月の日は狼になってしまうんですよ。だからガチ恋最盛期は月を見上げて、「はぁ……ルーピン先生……」と想いを馳せていました。当時は本当にホグワーツに入りたかったし、『ハリポタ』の世界に行きたかったです(笑)。
C 私は『テニスの王子様』ですね。特に跡部様【2】が大好きで、夢小説を読みまくってました。跡部様の誕生日には、今でもお祝いにケーキを買ってます。そうそう、中学生のとき、跡部様へのプレゼントを探しに伊勢丹に行ったんですよ。
A 本当の彼氏へのプレゼントみたい!
C 緊張して何を選んでいいかわからなくて、結局2万円くらいするタケオキクチのキーケースを買いました。だけど勇気がなくて、集英社に送ることができなくて、あとでお父さんへのプレゼントにしました。何も知らないから、すごく喜んでくれましたね(笑)。
一同 かわいい~(笑)。
B やっぱり夢ジャンルにおいて跡部様は偉大ですよね。