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NewsPicks後藤直義の「GHOST IN THE TECH」【15】

人間を「クスリの製造工場」に変えてしまう、未来のバイオベンチャーの実力

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あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界でさまざまなテクノロジーが生み出され、デジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。

モデルナ

2010年にアメリカ、マサチューセッツ州で創業、本拠を置くバイオテクノロジー企業。メッセンジャーRNAに基づいた創薬をする。18年12月に、バイオテック史上最高の時価総額75億ドル(約8000億円)で米ナスダックに上場を果たした。そして現在、新型コロナのワクチン開発で注目を集めており、20年4月には、時価総額で1兆円を突破している。

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 アメリカでもっともお金を持っている大学教授の1人が、新型コロナによって、意図せずにさらに金持ちになっている。そんなニュースが話題になっているのを、ご存じだろうか。

 その人物とは、ティモシー・スプリンガー。ハーバード大学のメディカルスクール(医学部)で内科の教授をつとめている、72歳の専門家だ。かねてから「私には十二分の資産がある。これ以上のお金は、必要だと思わない」と語っており、その暮らしぶりは豪奢ではないという。ジーパン姿で自転車にのって、大学まで通うという日常を続けている。

 趣味は、中国の奇石「スカラーズ・ロック」のコレクションだが、これも研究者としての好奇心が原動力になっているようだ。家庭菜園で、野菜や果物を育てることも楽しみらしい。不動産を買い漁ったり、ヨットを乗り回して遊んだり、高級ブランドに身を包んでいるような人物ではない、ということだ。

 もともとは生粋の学者だったスプリンガー氏が、大きな財産を手にしたのは1999年のこと。出資をしていた製薬会社が成功して、ミレニアム・ファーマシューティカルズ(武田薬品が2008年に買収)に買収された。

 これによって約1億ドル(約110億円)の資産を手にしたスプリンガー氏は、みずからが興味をもっている医療やサイエンス分野で、さまざまなベンチャー企業を支援するようになった。そのうちのひとつが、モデルナという会社だ。そしてこのモデルナこそ、いま世界でもっとも注目されているバイオベンチャー企業になっている。

 いま世界中が血眼になっているのが、新型コロナウイルスを予防することができるワクチンの開発だが、モデルナはその最有力候補として期待されているからだ。いまだに販売している商品はゼロにもかかわらず、その期待値から株価がどんどん上昇。時価総額にして、1.7兆円の企業に化けてしまった。

 そしてスプリンガーが投資した5億円は、すでに900億円近い価値をもっていると報じられている。投資リターンは約170倍。バイオテクノロジーの世界の、万馬券を引き当ててしまったというところだろう。

人間の設計図mRNAをハッキングする技術

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