サイゾーpremium  > 特集  > アダルト  > 「モテ本」「恋愛本」のジェンダー観【1】/【モテ本】から探る男性優位社会
第1特集
「モテ本」「恋愛本」のジェンダー観【1】

「男に都合のいい女」を育て、男の性犯罪も助長?――“恋愛指南本”の変遷から探る男性優位社会の問題点

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――大型書店には専門の棚がある「モテ本」「恋愛本」と呼ばれる書籍群。女性の書籍は「愛される」「選ばれる」といったキーワードを使った本が長く売れてきた。一方で男性の本はナンパ師が著者のものも多く、強引にセックスへと持ち込む手口は事件も引き起こしている。そうした書籍の問題点をジェンダーの観点から探る。

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00年代半ば、ブームを巻き起こしたエビちゃんこと蛯原友里。

 いつの時代も一定の需要がある「モテ本」「恋愛本」と呼ばれるジャンルの書籍。ナンパ師がナンパ法やモテ理論を説くものから、心理学者やカウンセラーが恋愛心理を分析したもの、今の時代に合った婚活法を解説するものまで、内容もさまざまだ。

 そうした書籍では、「男は/女はこういう生き物」「こういう女子が男に選ばれる~」など、男/女という大きな主語で恋愛やモテ術が解説されがち。そうした書きぶりは、ジェンダーのステレオタイプを強化している一面もあるだろう。恋バナ収集ユニット・桃山商事で活動し、『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(イースト・プレス/19年)などの著書があるライターの清田隆之氏は、このジャンルの書籍を以下のように分析する。

「特に女性向けの書籍では、『男はこういう女を求めてる。そこに自分をアジャストしましょう』という発想がベースにあり、既存のジェンダー観をなぞった助言がなされます。すでに社会に埋め込まれているミソジニーや性別役割分業、セクシズムなどが表れやすいジャンルだと思います」(清田氏)

 本稿では、そうした前提を踏まえつつ「モテ本」「恋愛本」の問題点を主にジェンダーの観点から探っていく。まず女性向けの本の歴史や現状について。女性向けのモテ本や恋愛本を読んできた一方、近年のフェミニズムの潮流にも詳しいライターの西森路代氏は、「女性向けのこのジャンルの本で、大きなブームになった最初の本は『ルールズ――理想の男性と結婚するための35の法則』(ベストセラーズ/97年)でしょう」と話す。

「ただ同書はアメリカの本ですし、『彼に自分から電話したり、彼からの電話にかけ直してはいけません』など、日本の感覚からするとモテにつながらない項目も多い(笑)。『とにかく男性に合わせる』という男性の価値観と『内面化』させる日本のモテ本は、そうした海外のモテ本が日本の文化のもとで再解釈されて生まれたものだと思います」(西森氏)

 自分をミステリアスに見せ、男を翻弄する技術が多く書かれた『ルールズ』は、ベストセラー『小悪魔な女になる方法』(蝶々/大和出版/04年)などにも影響を与えているはずだ。男女それぞれに向けた恋愛指南本を書いている作家・アルテイシア氏は、そうした本を読んできたひとりだ。

「『ルールズ』は友人たちの間で“魔の書”と呼ばれるほど話題になりましたが、あれは狩猟民族向けの本で、日本人には合わないとも感じました。また蝶々さんの小悪魔本も大ブームになりましたが、小悪魔本を読んで小悪魔になろうと努力するのって、柴犬がシャム猫を目指すみたいな話で、そもそも無理がある(笑)。小悪魔は天然の小悪魔だからモテるんですよ」(アルテイシア氏)

 そうやって無理に自分を演じると、短期的には恋愛が成功しても、長期的には苦しむことになるケースが多いという。

「小悪魔を演じて釣れる男は“落とすまでが楽しい男”ですし、結局すぐに飽きられてフラれるパターンが多いんです。また、相手の望むような女性像を演じて相手を落としても、結局は続かない。相手は『思ってたのと違う!』となりますし、『素を出したらフラれちゃう』という状況は自分もしんどいですから。ぐっどうぃる博士(『恋愛マトリックス』〈SB文庫〉などの著書のある恋愛カウンセラー)のように恋の駆け引きを指南する本にも同じことが言えて、恋愛の駆け引きを50年続けるのは無理ですよね」(同)

 そうした考え方を踏まえて、アルテイシア氏は「恋愛は『モテ』より『マッチング』」と提唱している。一方で多くのモテ本は、「大多数の日本の男性に好かれる女性像」を理想として提示し、既存のジェンダー観を踏襲・強化もしてきた。

「日本の女性向けのモテ本に書かれてきた『男ウケ』『愛され』のテクニックって、結局は『男にとって都合のいい女になれ』とイコールのものが多い。その女性像は良妻賢母が基本なので、『家庭的なことをアピールせよ』『男に尽くせ』『男を立てろ』みたいな助言になるし、家事や育児、介護などのケア労働も女性が担うことが良しとされてしまうんです」(同)

 女性がそうしたジェンダー観を内面化していること以上に問題なのは、男性側のジェンダー観だ。

「男性側も『男は会話でもおだててもらうのが当然』みたいなジェンダーロールを刷り込まれています。だからこそ女性には『いつも笑顔で愛想よく』という姿勢や『女性ならではの細やかな気遣い』などが求められ、こたえられないと『女のくせに気が利かない』『女子力が低い』と言われてしまう。『合コンさしすせそ』的な恋愛テクニックもそうした流れで生まれたものでしょうし、婚活の場面でも『キャバクラで女の子がしてくれるようなサービス』を求める男性がいることに、女性たちはうんざりしています」(同)

「モテ・愛され」から「ありのままで」の時代へ

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