――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった?生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉
本誌は先月、お休みでしたが、この経済誌(?)でも似た感じの時評コラムを書いています。こっちもいつの間にか連載30回超え。
本誌が出る頃には東京へ戻っているはずだが、所用で沖縄に滞在していたら、新型コロナウイルス禍で、帰りの飛行機がキャンセルになってしまった。編集長からも電話があり、東京のスーパーで買い占めパニックが起きているという話を聞いた直後、今度は老母から電話が。東日本大震災当日、東京駅で野宿する羽目になってホームレスのダンボールを奪い取っていた「逆・羅生門」系老婆が今回はどんな残虐行為をやらかしたのかと不安になったが、焼け跡世代はサバイバー体質だけども群衆心理系の混乱には動じないらしい。まあ「今回もあんたは沖縄か。運がいいねえ」と皮肉を言われたのだが、沖縄も東京よりはマシとはいえ、また感染者が増加しているので、他人事でもない。というか、東京オリンピック延期をいくら報じたところで、地方民には他人事だったのだが、経済が回らないと都市圏で手綱を緩めた途端に芸能界のスーパースター・志村けんの重症感染からの死去が報じられたことで、いよいよ全国レベルの危機になっている。
担当さんは出版業界への影響を心配していたが、たぶんトップコンテンツに売り上げが集中する現象が起きるのだろう。マンガや小説でいえば、『鬼滅の刃』はより売れるけど、マイナー作品の売り上げは半減する、とか。外出自粛要請を契機に電子書籍への移行がもっと進むか、とも思ったが、那覇のブックカフェを眺めると客入りはそれほど減っておらず、むしろ他の娯楽施設や興行が自粛しているから近場の本屋にでも行くか、ということなのかもしれない。出版社の期間限定無料公開キャンペーンも、せめて宣伝になれば、ということだろうが、学習マンガなど、これまで電書になじみのなかった子ども向けジャンル以外での効果は薄いような気がする。すでに割引セールが日常化しているので……と書いたら、小学館が一ツ橋の本社を封鎖、全社在宅勤務となり、宝島、朝日新聞社にも感染者が出た。こうなると現場の編集者のほうが身動きが取れなくて辛い。もっとも、年末進行直前に千駄ヶ谷や池袋へ移転させられた上に、ネット回線の工事が遅れて軒並みブチ切れていたKADOKAWAのマンガ誌編集者は、全社在宅勤務のほうがまだマシだと思っているかもしれないが。