あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界でさまざまなテクノロジーが生み出され、デジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。
今月のテクノロジー『インスタカート』
アメリカ・サンフランシスコに本拠地を置く、食料品などの即日配達サービスを運営する企業。2012年に創業した。使いやすいと好評のアプリと、すばやいお届けで人気となり急成長。2018年10月時点で約8411億円の企業価値に。一方このほどの新型コロナ騒動で、買い物代行を請け負う「ギグワーカー」たちの取り扱いで問題が起こっている。
(写真/Denver Post Photo by Cyrus McCrimmon)
2020年3月中旬、私が住む米国のサンフランシスコ市では、ロックダウンが始まった。
街の中は、まるでゴーストタウンだ。普段は人混みであふれているダウンタウンでは、ルイ・ヴィトン、ブルガリ、ボッテガなどの高級ブランド店が、店内から商品をすべて撤去し、ガラスを破壊されないように木材でバリケートを張っている。
人気のレストランも、そこで食事を提供することはできず、テイクアウトか宅配しか許可されていない。そのためどの店のドアにも、テイクアウトオンリーの紙が貼られており、それを利用するお客さんもほとんどいない。
約90万人の住民が、朝の散歩などを除けば、ほとんど「巣ごもり」のような生活に突入。すでにその生活が、3週間以上も続いている。
この生活に欠かせなくなったのが、シリコンバレー発の「インスタカート」という買い物代行アプリだ。ユーザーにとって、こんなに助かるサービスはない。アプリを開くと、大小さまざまなスーパーマーケットや食料品店のアイコンが並ぶ。そこでバーチャルに「入店」して、欲しいアイテムをどんどんタップして、最後はオンライン決済するだけだ。
今やスーパーマーケットに買い物に行くのも、住民にとっては大きなリスク。店内にいるほかのお客さんであったり、スタッフにコロナ感染者がいれば、空気中の微小な飛沫などを通して、感染するリスクが万が一にもあるかもしれない。
だったら、誰かに頼もう。そんなコロナ需要によって、すでに全米で合計17万人ものギグワーカー(単発の請負スタッフ)を抱えているインスタカートは、その人員を新たに30万人増やすと発表した。
それでもユーザーが殺到しており、昼夜アプリの画面とにらめっこして、素早く注文を済ませてても、頼んだ品物が到着するのは数日後といった状況になっている。つまり、大盛況ということだ。
しかし、荷物を運んでくれている約17万人のギグワーカーの一人ひとりに話を聞くと、これはとんでもない仕事であることがわかってくる。