――若手から大物まで、芸人のYouTubeへの新規参入が相次いでいる。芸人からYouTuberへと転身せんばかりの本気のチャンネルや、テレビや舞台の仕事に繋げるためのチャンネルなどさまざまなジャンルが見えてきた。果たして、その差異はどのようになっているのか? 百花繚乱となった市場を分析してみた。
テレビのコンプライアンスが厳しくなって以降、オルタナティブな存在としてネットメディアなどで活躍してきたエガちゃん。
かつて、お笑い芸人はYouTuberを明らかに“下”に見ていたに違いない。2014年にTHE MANZAIで優勝した博多華丸・大吉が披露したネタ「YouTuberになりたい」にも、それはまざまざと現れていた。
当時は、「好きなことで、生きていく」というキャッチコピーでHIKAKINなどが出演するYouTubeのテレビCMが流れまくっていた頃。漫才では「我々プロがやったらもっといい作品ができるんじゃないか」というフリから展開されていくのだが、要はYouTuberが「お笑い芸人に比べてつまらないことをしている人たち」という認識があってこそ生まれた笑いだった。
「実際にその時代、特にお笑い芸人の間では、テレビと比べてYouTubeが劣っているという考えも根強かったですね。例えば、話題の人としてYouTuberがゲスト出演するバラエティ番組では、彼らを億万長者として散々祭りあげたあとで、テレビカメラの前では何もできない彼らを映し出し急転直下で小馬鹿にしていじったりしていた。あの頃はその演出を当たり前のように思ってましたが、『お前たちは自分のクラスの中だけでしか面白くない素人』と言わんばかりの残酷ショーが散見されていました。今もそれを覚えている人はいないでしょうね」(バラエティ番組ディレクター)
その頃から5~6年の時がたち、いつのまにやら続々と芸人がYouTubeに参戦している。すでにレッドオーシャンと化したこの市場で、時代の変化やテレビとのスキームの違いをとらえきれずに、敗残兵となる芸人たちも少なくない。
なまじテレビで有名になった芸人ほど、失敗して笑いものになるという例も少なくないのだ。
お笑い芸人とYouTuberの構図は今やキレイに逆転した。子どもたちの憧れの職業はYouTuberへと移ろい、広告費もネットがテレビを超越した。昔のようにわざわざテレビに出たいというYouTuberも少なくなり、むしろ頭を下げてテレビ出演を了承してもらわなければいけない昨今だ。出演OKをもらったところで高額なギャラを払えないのが、現在のテレビ界。すると、自然にお笑い芸人のプライドもテレビの衰退と共にいつの間にか消え去っていた。
「現代では、もはや『YouTuberになりたい』はボケにはならず、ただの副業宣言、もしくは転身表明です。お笑い芸人たちは続々とYouTubeに参入してますし、かつて下に見ていたはずのネットの住人たちとせっせと勢力争いを繰り広げていますよね」(同)
ここで今一度思い出したいのが、博多華丸・大吉が漫才の中で放った「我々プロがやったらもっといい作品ができるんじゃないか」というセリフだ。一般人のYouTuberに比べて弁が立ち、こと面白いということに関してはプロである芸人。YouTubeの世界に乗り込んでも、ネタを作り続け、テレビで数多の企画を経験してきた発想力は秀でているはずだ。しかし、やはりYouTubeにはテレビとは異なる独自の戦略が必要とされると、動画でのプロモーションに詳しい大手広告代理店社員は語る。
「例えば、YouTubeの基本はコメントを返すこと。テレビは一方的ですけど、YouTubeは双方的です。日本と海外でも違っていて、海外の場合はついたコメントに本人がそのまま返します。ところが、それが原因で動画が炎上したりすることもあります。
だから日本のYouTuberはコミュニケーションにツイッターを使うことが多い。HIKAKINもはじめしゃちょーもそうです。動画の感想に対してツイッター上で返信したりする。そしてそのリアクションをまた次の動画にフィードバックするんです。そうすると感度もあがるし、寛容度もあがるから、視聴者はまた次も見ちゃいますよね。ラジオで言うところのハガキが読まれるかっていう感覚に近いと思います」
そんなYouTubeのお決まりごとにもフィックスしていかなければ、ネットの世界では通用しない。有名芸人であれば、普段は見せない裏側を晒すだけでもある程度の再生回数は稼げるだろう。しかし、知名度もそこそこであれば、芸人としてのお笑いテクニックをそのまま提供するだけでは必ずしも生き残っていけない。事実、早々にYouTubeに参戦していた芸人たちの多くが、現状では結果を残すことができていないのだ。