(写真/二瓶彩)
映画『万引家族』が2018年度第71回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールに輝き、『ジョーカー』は日本での興収50億円超を記録、そして韓国発の『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門を獲得した。
今、なぜ人々は格差と貧困という“リアル”を題材にした映画を観たがるのか? なぜ、こうした映画が増えてきているのか? そんな社会の精神状態を、「『狂い』の構造 人はいかにして狂っていくのか?」(扶桑社)「サイコパス解剖学」(洋泉社)といった作家・平山夢明氏との共著でも知られる精神科医・春日武彦氏に聞いた。
――映画は“社会を映す鏡”とも言われています。貧困や格差を題材にした映画が続けて作られるのは、やはり社会が貧しくなっているということの現れなのでしょうか?
春日 僕は精神科で外来医をやっているわけですが、どうしても病気になったことで働けなくなって生活保護を受けざるをえなくなったりとか、いろいろと経済的に制約されてしまった低所得者が患者さんには多い。でも、貧しい層に位置するんだけど、一見したところはみんなけっこうこざっぱりしている。いわゆる“貧乏人”には見えないんです。特に女性、生活保護を受けているシングルマザーはみなさん小綺麗ですよね。ユニクロやしまむらとかのファスト・ファッションがあるから、表面的にはなんとかなっているんですよ。
――いまはスマートフォンを持とうとおもったら、高額な大手通信キャリアを使わないで格安なSIMロックフリーのサービスもあるし、大きめのスーパーだと余った惣菜を使った弁当が数百円で買えます。
春日 そうなんです。スマホを持っていない生活保護受給者なんて、まずいない。しっかりとiPhoneとか持ってますから。外食に関しても、マクドナルドであろうと牛丼屋であろうと日高屋であろうとね、ああいった店には低所得だから行くというよりは単に便利だから行くわけだし。年収300万円の人も年収1300万円の人も、一緒に並んで食べている。だから、少なくとも外見的には上か下かっていうのはわからない印象がある。もう、貧困層とか富裕層の区別はつかないなと。そういう意味では、ユニクロ、しまむら的なものの存在ってものすごく大きいよね。昔だったら服に金を掛けていた奴は多かったけど、いまはぜんぜんそんな感じじゃないし。デパートの洋服売り場なんて人がいない。伊勢丹のメンズ館だけが一人勝ちって状態ですよね。
――でも、実際には消費税は上がるけど給料は上がらずといった具合に、まだ食べるのは困らないけど裕福だという意識は持っていない人は多いですよね。