――西洋の名画のような“教科書的な読み方”では理解不能な作品が多く、「作品について調べてみたけど腑に落ちない……」と言われることもある現代アート。本稿では、そんな現代アートの本質的な面白さや革新性、そして現代社会との関わりがわかる書籍を関係者の声をもとに紹介していく。
自身の作品の前でポーズを取るオラファー・エリアソン。(写真:Judith Burrows/Hulton Archive/Getty Images)
「現代アートについて知りたい」と思った人の多くがまず手に取るのは、やはり初心者向けに書かれた入門書や、近年ブームの続く大人向けの教養書だろう。『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』(文響社)のヒットに前後して、アートの分野でも「教養としての~」「世界のエリートが~」といったタイトルの書籍は増加中だ。
だが本稿で「現代アートの今がわかる本」を紹介してくれた現代アートの識者たちは、「そうした本はあまり……」と口を揃える。アート専門出版社・アートダイバー代表の細川英一氏は「個人的にはそうした本に魅力を感じません」と話す。
「“教養”の名を謳う書籍の多くは、『西洋や日本の美術史や名画の見方を学びましょう』と教科書のような内容が並んでいる印象です。そうした本から『教えてもらおう』という感覚や、権威的な名画をありがたがる姿勢とは真逆のところに、現代アートの面白さはあると思います。また現代アートを投資と結びつけて紹介する本もブームですが、そうした本の書き手は作品を売る商売の人が大半。アートマーケットを深く知る人にとっては、『世界中で発表されているアートの99・9%は値が下がる』というのが現実ですから、それを告げずにポジティブなことばかりを語るのは危険だと思います」(細川氏)
そして細川氏は、現代アートへの真摯な手引書として、まず椹木野衣氏の『感性は感動しない』【1】を薦める。
「今の日本の美術界を代表する批評家の著作ですが、本書は至って平易な文章で書かれています。その内容も、『美術作品は見たままに感じ取って、そこから自分の感性を深堀していけばいい』というシンプルなもの。シンプルで本質的であるがゆえ、実践するのは実は難しいかもしれないですが、現代アートに抵抗がある方にも最初の1冊にオススメです」(細川氏)
感性よりも論理の方向から、現代アートを読み解いていきたい人には、『スペキュラティヴ・デザイン』【2】もいい。推薦してくれたのは、視覚文化全般を中心としながら美術批評も手がける塚田優氏だ。