――SNSに珍奇な画像を投稿しては話題を呼んでいるのが、大分の温泉街・別府にある古書店の「書肆ゲンシシャ」。同店には世界各国のマニアックな書籍が数多くコレクションされているが、そんな中でも「奇妙」で「タブー破り」な写真集を紹介してもらった。
書肆ゲンシシャは写真集だけでなく、マンガや絵葉書、別府の郷土資料なども取り揃えている。住所:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515(http://www.genshisha.jp)
新型コロナウイルスの感染者が日に日に増しているものの、外国人観光客の姿もちらほら見かける、旧正月中(春節)の大分県別府市。「山は、富士。海は、瀬戸内。湯は、別府」という油屋熊八の言葉通り、同地は温泉街として知られており、別府駅東口から別府湾方面に向かえば、「竹瓦温泉」や「浜脇温泉」などの名湯がいくつも湧いている観光地だ。その一方で、反対の別府駅西口側は温泉や宿はあるものの、観光地というよりも住宅街。だが、そこに市民たちの憩いの場であり、昨年までアニッシュ・カプーアの《Sky Mirror》が飾られていた別府公園がある。さらにその隣に現在、数多くのメディアで取り上げられている「書肆ゲンシシャ」は存在する。
同店は「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集だけではなく、ゼンマイ仕掛けで女性の目が動く大正時代の掛け時計や、人の皮膚で装丁されたという17世紀の本など、奇妙な物が数多くコレクションされており、その総数は5000以上にも及ぶ。そして、それらは500円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在して見ることができる。
この手のサブカルチャー寄りの古書店は、全国的に見れば珍しくはないが、ゲンシシャはその珍しいコレクションに関する投稿によってSNSで話題となっている。通常の古本屋のツイッターアカウントのフォロワー数は、有名店でも多くて2万人近くだが、ここのフォロワー数は7万9000人。そのため、店内には少子高齢化に喘ぐ地方都市とは思えないほど若者が多く、別府の新たな観光名所として話題を集めている。
そんな九州だけではなく、全国からサブカルキッズたちが集まっている、書肆ゲンシシャの店主である藤井慎二氏に、同店が所蔵している中でも、海外で出版された「奇妙」な写真集を紹介してもらった。
――まずはゲンシシャがどういうお店なのかお聞かせください。
藤井慎二(以下、藤井) ゲンシシャは「エロ・グロ・ナンセンス」を掲げた古書店です。「エロ・グロ・ナンセンス」というのは、大正時代から昭和初期まで流行していた風潮です。その背景には関東大震災と世界恐慌があり、「人間というのは明日どうなるかわからない、今さえ良ければいい」という刹那主義が蔓延し、カフェーというところで女性を触ったりと、人々は快楽に身をまかせるようになったんです。そして、今の日本というのもリーマンショックと東日本大震災を体験して、明日どうなるかわからない。そんな中で、東京ではヴァニラ画廊がたびたび「シリアルキラー展」をやるなどして、猟奇的なものが話題になります。その一方で「表現の不自由展」であったり、コンビニで成人誌を取り扱わなくなったりと、規制も強化されてきています。その対立項として、「死」などタブーとされているものに、あえて切り込んでいくことも必要なのではないかと思い、ゲンシシャを運営しております。
――ゲンシシャが標榜する「驚異の陳列室」というのは、かつてヨーロッパで貴族たちが自分たちのコレクションを見せていた、今日の美術館や博物館の原型となった存在ですが、それをなぜ別府でやろうと思ったのでしょうか?