――底辺から真上を目指し、日本語ラップシーンの新たな刺客として注目を集めるACE COOL。新作が待たれるいぶし銀のラッパーの口からは、その朴訥なイメージを覆す本音がこぼれた。
(写真/若原瑞昌・D-CORD)
「ラッパーはボースティングをするし、ステージの上でも(役に)なりきってると思うんです。特に今はキャラクター性が強いじゃないですか、インスタなんかを見ていても。だけど、ホントにそのまんまの人とそうじゃない人がいて、(ラッパーとしての)自分は普段と全然違う。なりたい自分になってる気がするんですよね」
ヒップホップの世界には、自らをリアルに表現することを旨とし、そこで完結するラッパーもいれば、ラッパーの自分とありのままの自分に境界を引くACE COOLのようなラッパーもいる。穏やかなその話しぶりからは、広島で生まれ育ち、グレることもなく3人兄弟の次男として、ごく普通な家族関係の中で育ったという生い立ちが見えるよう。影響を受けたと語る映画についても、〈キタノブルー〉なる言葉で特徴づけられる90年代の北野武や、ガス・ヴァン・サントの『エレファント』などを好みに挙げるあたりに彼らしさが垣間見られる。
もともとマンガ家を夢見て、『ろくでなしBLUES』(集英社)や『クローズ』(秋田書店)のような絵やマンガを描いていたという小学生時代を過ごした彼は、中学でヒップホップにどっぷりハマり、遊びでリリックを書くまでに。その後、18歳でラッパーの活動を始めたものの、「先が見えたし、自分の思うカッコいいヒップホップと広島のシーンがズレている」との思いを抱くようになった。そんな背中を押したのは、当時地元のイベントで同じステージに立ったラッパーのAKLOの存在だった。AKLOのファーストアルバム『PACKAGE』は、21歳のACE COOLを上京に導くきっかけとなる。