――『疾風伝説 特攻の拓』を筆頭に、ヤンキーマンガには特殊な“ルビ(ふりがな)”や“当て字”の文化があり、そこにある種の“美学”が感じられてならない。では、それはどこからやってきて、現在にかけていかに継承され発展してきたのか――。秀逸なルビの用例を挙げながら、“マジメ”に考察してみたい。
『疾風伝説 特攻の拓』(講談社)6巻より。ルビの使い方として常軌を逸するこのセリフには、ヤンキー文化のリアリズムが表れている!?
「“事故”る奴は‥‥”不運(ハードラック)”と“踊(ダンス)”っちまったんだよ‥‥」。これは、1991~97年に「週刊少年マガジン」(講談社)で連載された佐木飛朗斗原作、所十三マンガの暴走族マンガ『疾風伝説 特攻の拓(かぜでんせつ ぶっこみのたく)』【1】に登場する、作中屈指の名セリフである。同作にはほかにも「“B”突堤(ビートツ)に‥来い‥‥」「俺らー“狂乱麗舞(キョーランレーブ)”の“朧童幽霊(ロードスペクター)”だぜ!」など特殊なルビ(ふりがな)や当て字、言い回しが頻出し、それが同作を“伝説”のヤンキーマンガたらしめた要因にもなっている。こうしたヤンキーマンガにおけるルビの“美学”は、どのようにして形成されていったのか?
「大前提として、漢字にルビを振るのは少年誌に特有の慣習であり、そこでさまざまな“ルビ遊び”が行われたのではないでしょうか。その中で、ヤンキーマンガという括りでは“本気(マジ)”“友達(ダチ)”“警察(デコスケ)”といったものが定番化していきます」
そう語るのは、ヤンキーマンガに詳しいライターの高畠正人氏。ここで注目すべきは、不良コミュニティにおける隠語や専門用語の類いを、ルビとして併記することができるようになった点だ。
「作品にリアリティを持たせる上で、実際に不良たちが使う言葉を作中にも用いることは極めて重要です。でも、例えばカタカナで“デコスケ”と書いても読者に伝わらないかもしれない。かといって“警察”と書いたらリアルじゃない。そこで“警察(デコスケ)”と表記し、ルビの意味を漢字で説明するような手法を編み出しました。そのような試行錯誤がヤンキーマンガのルビを進化・多様化させたのでしょう」(高畠氏)
その好例が、83年に連載がスタートしたきうちかずひろの『ビー・バップ・ハイスクール』【2】だ。
「『ビー・バップ』は『週刊ヤングマガジン』(講談社)に連載されていたので少年マンガではないのですが、まず各話タイトルが『転校生獲得抗争』や『恋愛死闘編』という具合にすべて漢字なんです。そこには東映ヤクザ映画の影響も見られ、要するに不良・アウトローと漢字の親和性の高さをすくいとっています。その中で、例えば『留年生(ダブリ)退学決意編』とか、劇場版のサブタイトルにもなった『高校与太郎哀歌(エレジー)』や『高校与太郎狂騒曲(ラプソディー)』のような“ルビ遊び”をしているんです」(同)