――『リング』『呪怨』の系譜を継ぐ和製ホラー映画『シライサン』を手がけた監督の正体は、ミステリー作家の乙一!? 映画にかける情熱は、小説の世界観と同じく、どこか猟奇的で……。
(写真/有高唯之)
「撮影現場では、僕がいちばん素人でしたからね。最初は役者さんの存在自体が怖くて……。なんで別人になって台詞とかしゃべれるんだろうって」
そう語るのは、安達寛高監督。またの名を小説家・乙一。そう、『GOTH リストカット事件』『ZOO』『失はれる物語』など、ゼロ年代にベストセラーを連発し、現在も精力的に作品を発表する気鋭のミステリー作家だ。山白朝子、中田永一名義でも異ジャンルの小説を発表している稀代のストーリーテラーが映画監督に挑戦した背景には、何があったのだろうか。
「短編映画は、すでに何本か撮ったことがあるんです。というのも、昔からずっと映画を撮りたいという夢があって、大学時代は知り合いの自主映画の制作を手伝ったりもしていたんです。そのときは、なぜか主演で役者をやらされて、名古屋駅前を血まみれのメイクで歩かされたりして……。引きこもりで人を殺す役でした」
ボソボソと語る独特のダウナーなペースにすっかり引き込まれてしまう。乙一作品の真骨頂である血みどろの描写は、こんな穏やかな表情の人間から生み出されていたのかと思うと心が少しザワつく。思えば、『暗いところで待ち合わせ』(2006年)、『きみにしか聞こえない』(07年)など多くの乙一作品がすでに映画化されてきた。自ら映像化するという選択肢はなかったのだろうか。