――子どもの絵本において、セックスを描くことはタブーに思えるかもしれない。しかし実は、保健体育の教科書のように生殖の仕組みを単に説明するだけでなく、さまざまな性の形を描いたものが存在する。その中でもとりわけハイクオリティな絵本を“目利き”たちに紹介してもらった。
『お母さん! 学校では防犯もSEXも避妊も教えてくれませんよ!』(辰巳出版)
幼い頃、「赤ちゃんはどうやったらできるの?」と生命の根源を探る崇高な問いを親に投げかけ、ごまかされた経験を持つ人は少なくないはず。ユネスコ「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では性教育の開始は5歳からとされているが、日本では「そんな小さな子どもに何を教えたらいいのかわからない」「学校に任せる」という保護者も多い。そんなときに参考にしたいのが、性をテーマにした絵本である。
日本で最初に“性教育絵本”を描いたのは、あの『アンパンマン』の生みの親・マンガ家やなせたかしだ。1972年に出版された、『なぜなのママ? 3歳からの性教育絵本』【1】。文章は「性を語る会」代表の北沢杏子氏、絵をやなせが手がけた。男性器から飛び出した精子が、女性の体内の卵子に向かい受精する瞬間を描き、当時は批判の声もあったという。
絵本で性を扱うことは難しい。子どもにどこまで伝えるべきかという問題がある上、わかりやすく伝えようとすると、どうしても説明的になり、保健体育の教科書のようになってしまうからだ。作品としての完成度が高く、かつ性を伝えるのに適した絵本はないのか――。500冊以上の絵本・児童書づくりに参加した編集者・装幀家の小野明氏と、丸善 丸の内本店の児童書担当である兼森理恵氏に話を聞きながら、探っていこう。