――「近代テクノロジーの発展はエロとともにある」という言葉がすでにホコリをかぶりつつある昨今。一方、AIなどの導入によりポルノはさらなる進化を遂げている。AI技術を活用したディープフェイクも日進月歩で性能がアップしているが、この背景には実は、米中経済戦争の影響で職を失った技術者の存在があるようだ。
日本でも一部で話題になった『70年、我是主角』。これ以外にも、友人とツーショット動画を撮影し、お互いの顔をすげ替えるアプリなどもある。
10月1日――中華人民共和国の建国記念日。今年は70周年ということもあり、大々的な軍事パレードの模様が日本でも話題となった。中国では既存メディアやSNS、動画サイトなどメディアミックスで“愛国コンテンツ”が展開されたが、なかでも中国の若者たちの間でバズったのが『70年、我是主角(我こそ主役)』というショートムービーだ。動画自体は、新中国成立から現在までの歴史的イベントを振り返りながら、主演俳優がタイムスリップするかのように時代を駆け抜けるものだが、劇中の俳優の顔をユーザーのものに差し替えることができるようになっていたのだ。政府系機関紙「人民日報」と、中国EC2位の京東が開発する「京東AI」が共同して送り出したこの企画は「90后」や「00后」(90年代、00年代生まれ)の心をつかみ、多くの若者を熱狂させた。
ここで使用されているのは「ディープフェイク」という技術だ。
以前、本誌でも取り上げたが、ディープフェイクとはAI(人工知能)開発の主流である機械学習の手法のひとつ「ディープラーニング(深層学習)」を使って、画像や動画の一部分を入れ替える。2018年4月にオバマ前米大統領が「トランプは救いようのないクソ野郎だ」と話す映像が公開され、話題を呼んだことがあるが、その動画はディープフェイクの実験動画だということが制作者によってネタバレされ、衝撃を呼んだ。実際の映像に、本人が話していない内容をあたかも話したかのように合成することができる。AI処理により、声や顔の表情まですべてつくり出せてしまうのだ。
ディープフェイクの出現により、昨今では政治家や有名人の発言が捏造され、内政や世界情勢、社会問題に多大な悪影響を与えると危惧されている。日本も含め、欧米でディープフェイクといえば、悪用されたときの影響が計り知れないことからネガティブなイメージがつきまとう。中国のように、国営メディアが積極的にそれを活用してプロパガンダに使うケースは世界を見渡しても異例というべきだろう。