――すべてのビール党に捧ぐ、読むほどに酩酊する個性豊かな紳士録。
房出勝彦さんが20年以上にわたって生み出してきたビールの数々は、忍びのごとく“知る人ぞ知る”存在であり続けてきた。そんなレア感も、クラフトビールの醍醐味だ。
「サイゾーさんってことは、やはりアレですか。忍者関連の企画か何かですか?」
開口一番、そんな疑問を口にしたのは、「エール工房de伊賀」を営む房出勝彦さんである。
なるほど、本誌の誌名の由来のひとつが、戦国時代に活躍した忍者・霧隠才蔵にあることは筆者も承知していたが、もちろんこれは単なる偶然。今回、「エール工房de伊賀」を訪ねたのは、あくまでそこに特筆すべきブルワーがいたからにほかならない。
三重県伊賀市といえば、言わずと知れた忍の里。その昔、伊賀流忍者の本拠地として栄えた歴史には、近年のインバウンドブームでいっそう注目が集まっている。
そこで外国人観光客向けに地ビールを造ってひと儲け――と思われそうだが、さにあらず。房出さんがクラフトビールの醸造を始めたのは今から20年以上も前、1998年のことなのだ。
「もともとは親の代から、伊賀市の名物である組みひもを作る仕事をしていたんです。ところが産業として徐々に衰退し、これは先々食えなくなるかもしれないと焦り、商売替えを考えるようになりました」
ブルワー転向のきっかけは、思わぬところにあった。