――第二次世界大戦を引き起こしたナチスのシンボルであるハーケンクロイツは、欧米社会ではタブー視されており、同時にそれに類似する卍もその被害を受けている。なぜ、ナチスは卍に類似したシンボルを採用したのか? 調べてみると、そこには仏教との怪しい結びつきがあった。
2012年、シュツットガルト大学のエルマール・ブーフナー博士は「宇宙から来たブッダ」というタイトルで、ナチスがチベットから持ち帰ったとされる仏像が隕石製であることを発表した。(写真提供/ユニフォトプレス)
2016年、国土地理院は2020年東京オリンピックに向けて、地図記号を外国人観光客にも理解してもらえるように郵便局やホテルなど15施設の記号を変更。その際、寺院の地図記号である「卍」が、かつて第二次世界大戦を引き起こし、ユダヤ人の大量虐殺を行なったナチス・ドイツの象徴でもある「ハーケンクロイツ」を想起させるとして、「三重の塔」への変更が検討された。
結果的に「卍記号を尊重すべき」という反対意見が多かったこともあって、この変更は見送られたが、ハーケンクロイツは欧米では邪悪なシンボルとしてタブー視されていることもあり、依然として配慮上の問題は残っているという。
卍はハーケンクロイツに類似していることで、欧米社会を中心に戦後から今に至るまでの間、多岐にわたって批判されているが、もともとはサンスクリット語のスワスティカに由来し、仏教やヒンドゥー教で“幸福の印”として使われていたものだ。インダス文明地域などでよく見られる印だが、なぜナチスがそのような印に類似したハーケンクロイツを自身のシンボルとして採用したのか、その背景はあまり知られていない。そもそも、ナチスのハーケンクロイツは卍と同じく、「吉祥」や「善良」という意味を持っているのだろうか?
一部では「ナチスは東洋の文化に関心を示していたから、卍を自らのシンボルにした」とも言われているが、実際に彼らの思想にはどのような裏側があったのだろうか? 本稿では「卍とハーケンクロイツの関係」をフックにしつつ、ナチス・ドイツの思想のバックグラウンドを考察していきたい。