――「無駄な血を流す必要はない」「悲しみは未来永劫、連鎖する」「戦争をやめよう」――こうした反戦を歌った曲を耳にしてきた読者は多いだろう。しかし、そのような反戦歌は、令和を迎えた現在でも、絶対数こそ少ないものの存在する。本稿では平成以降に「アイドルが歌ってきた反戦歌」の内情を探ってみた。
取材に協力してくれた制服向上委員会の橋本美香氏(現在はグループ名誉会長)。反戦を歌い、東日本大震災後には「ダッ!ダッ!脱・原発の歌」などを発表。現在は現役メンバー不在のため、OGメンバーが主体となって活動を行っている。
1960年代後半、ベトナム戦争をきっかけに世界中へと広まっていった反戦歌ムーブメント。日本でもフォークシンガーを中心に数多くの反戦歌が生まれ、その流れは反核や反原発などをテーマにしたプロテストソングへと表現の幅を広げながら、ロックミュージシャンらによって引き継がれていった。しかし平成以降、日本のポップシーンにおいて反戦歌のようなメッセージソングは激減する。それはいったいなぜか? メジャーレコード会社に勤務するスタッフA氏は、次のような見解を述べる。
「90年代に入るまではフォークやロックに限らず、あらゆるジャンルのアーティストが反戦の意を歌に託していたと思います。しかし、次第にメジャーのレコード会社は政治的な摩擦を起こす曲の発売に消極的になっていった。また、楽曲として完璧なものを作り上げられる自信がない、という潜在的な意識がアーティスト側にもあるのだと思います。音楽は今も昔も変わらず“聴く者の心を揺さぶる”ものですが、昔と今ではアーティストのアイデンティティの差も大きく、平成以降の音楽は、よりエンタメとしての側面が強まったことも要因ではないでしょうか」
とはいえ、決して数こそ多くないが、平成に入ってもメジャーでも反戦歌はリリースされており、その担い手として「アイドル」に白羽の矢が立てられた。例えば、SMAP「Triangle」(05年)をはじめ、AKB48「僕たちは戦わない」(15年)、けやき坂46「NO WAR in the future」(18年)などが挙げられ、隠喩を含む歌詞の内容などから見ても、反戦のメッセージが込められていることは明らかだ。しかし、送り手側がおおっぴらに“反戦歌”と明言することは、ほぼない。
「レコード会社が反戦を歌うことをNGにしているわけではないんですが、仮に反戦歌だと思われたとしても、『反戦を歌っているように聞こえるが、そうでないと言われれば戦争の歌ではない』という“逃げ道”を作る風習は昔からあるんです」(A氏)