――このところ“家族”や“格差社会”をテーマにした東アジアの作品が立て続けに栄冠を手にし、世界的評価を高めている。だが今回、東アジアの映画を語る上で注目したいテーマはほかにある。“暴力描写”だ。欧米に比べて、その残虐性は段違い。独自の飛躍を遂げているという。
ポン・ジュノの名作『殺人の追憶』で、酔っ払った刑事が焼肉店で暴れるシーン。執拗に相手に、体重を乗せた蹴りを食らわせる。実に実践的だ。(写真/『殺人の追憶』より)
ハリウッド映画は特に厳しいレイティング・システムが敷かれており、暴力描写はそれほど激しくない傾向にある。だからこそ、今注目が集まる東アジアの映画で、実はひときわ目立っているのがバイオレンス映画の残虐性だ。欧米にはないおびただしいほどの血の量、競うようにオリジナリティを増す殺害方法。韓国、日本、香港、中国、東南アジア、それぞれでも特徴は異なるが本稿では「キネマ旬報」などに寄稿し、映画に精通するライターの平田裕介氏に各国の代表作をピックアップしてもらいながら、東アジア最強のバイオレンス映画を独断と偏見で決定したいと思う。もちろん、正直にいえば、国ごとで特徴わけするのはいささか強引で当然、監督ごと、作品ごとそれぞれで違うとも言えるが、実際に集めてみると大まかな傾向が見えてきた。
さて、韓国映画で初めてカンヌを制した『パラサイト』の監督、ポン・ジュノが最初に注目を集めたのもバイオレンス映画だった。2003年、自身2作目で実際の未解決連続殺人事件を扱った『殺人の追憶』は当時、韓国映画史上最多の動員を記録した。刑事が容疑者を次々と拷問していく様はどこまでも生々しく話題となったが、平田氏は韓国の暴力描写の特徴は“リアル志向”にあるという。
「韓国はノアール的な作品でもリアル志向が強いんです。ビンタが多かったり、あとは面倒くさそうにしながらモノでたたいたり、殺す前にため息をついたり。軍人気質もあるからなのか、とにかく粘っこいのも特徴かもしれません」
そんな中でも特に衝撃を受けた作品が2016年の『アシュラ』【1】だという。