――「アート・バーゼル香港」がアジア最大のアートフェアとして機能し、上海では大型の美術館が次から次へと建設されているが、2018年には草間彌生の“贋作”展覧会が開かれたと報じられ、物議をかもした。一体、中国のアートをめぐる環境はどうなっているのか? 市場と政策の観点から、その実態を見ていこう。
発電所を改築した上海当代芸術博物館。(ホームページより)
現在、中国の美術市場は、アメリカ、イギリスに次ぐ3位――とりわけ現代美術に関してはアメリカに次ぐ2位の規模を誇るなど、急成長を遂げている。盛り上がりを見せているのは、マーケットだけではない。2012年、中国初の国営現代美術館である上海当代芸術博物館(開館以来、上海ビエンナーレのメイン会場となっている)と、個人コレクターによる民営美術館である龍美術館西岸館がオープンした上海では政府主導の下、上海万博の跡地に隣接する「西岸地区(ウェストバンド)」を文化地区として再開発することが推し進められ、ギャラリーの招致や美術館の建設ラッシュが続いている。実際、上海はアートの新興都市として世界的にも注目を浴び、ペロタンやリッソンなどいわゆるメガギャラリーが出店。加えて、徐震(シュー・ジェン)、陸揚(ルー・ヤン)、胡為一(フー・ウェイイ)といった世界的に活躍する作家も上海から登場している。それにしても、なぜ中国でアートが盛り上がっているのか、その市場と国の政策はどのように絡み合っているのか――。ここでは、芸術文化産業に関する造詣が深く、自身もアート・コレクターである弁護士の小松隼也氏に話を聞きながら、中国のアートをめぐる現状について考察していきたい。
「まず、中国のアート市場を支えているのは、言うまでもなく同国の経済成長で生まれた富裕層たち、および海外留学の経験などもある富裕層の子息たちからなるコレクターです。土地の所有が認められていない中国において、アート作品は当局の制約をもっとも受けない投資物件のひとつ。しかも、市場は世界のマーケットと連動し、作品の価値は大体安定している。そうやって投資対象としてアートを見ているうちに、だんだんアート自体が好きになってハマった、という中国人コレクターはかなり多いようです」