――近年、上海ファッションウィークに出展するブランドは中国国内/国外問わず増え続け、世界的に通用し得るハイセンスな国産ブランドが頭角を現している。しかし一方で、ドルチェ&ガッバーナのPR動画が大炎上し、中国市場を一瞬にして失うという出来事もあった。そんなこの国のファッション界の実態を見ていこう。
大炎上したドルチェ&ガッバーナのPR動画。これのせいで、中国市場を失った。
2018年11月、ドルチェ&ガッバーナ(以下、D&G)が上海で開催を予定していた大型ファッションショーが中止となった。原因は公式インスタグラムで公開されたショーのPR動画。アジア系女性が箸を使い、ぎこちない様子でピザやスパゲッティなどを食するという内容で、箸を「棒」と表現するなど「アジア文化を冒涜している」としてすぐさま炎上。さらに、D&Gのデザイナーであるステファノ・ガッバーナ氏が、抗議に対して公式インスタグラムで「君は僕が炎上を恐れていると思っているのかい」などと挑発し、ショーに出演予定だった女優チャン・ツィイーなど多くの有名人が続々と不参加を表明した(ガッバーナ氏は後に「アカウントが乗っ取られた。現在、弁護士が対応中だ。私は中国と中国文化を愛している。このようなことが起き、非常に残念だ」と釈明)。結果、ショーが中止となっただけでなく、同ブランドの商品が中国のECサイトや百貨店などから撤去される――つまり、D&Gは中国市場を失ったのである。
なお、報道によると、D&Gの本国イタリアにおける17年度の売上高はたった24%。一方で、「日本を除いたアジア地域」は30%にのぼる。その大部分は、現在44店舗を展開している中国が占めているという。『ラグジュアリーブランディングの実際』(海文堂出版)などの著書がある早稲田大学ビジネススクールの長沢伸也教授は、D&Gの騒動について次のように解説する。
「イタリアのブランドであるD&Gは、これまでもたびたびシチリアピザを食べる女性モデルなどの広告を展開してきました。その流れもあって、軽いジョークのつもりでPR動画を制作したのでしょう。それが思いがけず炎上してしまった。慌ててしまったのか対応が遅く、不適切だったため、さらに炎上。ジョークのつもりでも、ブランド全体の3割の売り上げが一瞬で吹っ飛んだのだから代償は大きい。現在も中国国内の店舗は閑散としているそうです。政治的・文化的な文脈が絡む炎上なので、立ち直るには早くても人々が騒動を忘れてしまう3年、長ければ世代が入れ替わる10年はかかると思われます」
ほかのラグジュアリーブランドも、そんなD&Gの騒動を見て気を引き締めたのではないだろうか。というのも、「ラグジュアリーブランド全体においても、売り上げのおよそ3割を中国人による購買(購買地は中国国内外を問いません)が占めている」(長沢氏)からだ。