――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。
10代女子のヒリヒリした自意識に極太の輪郭をつけさせたら天下一! の山戸結希監督(『おとぎ話みたい』『溺れるナイフ』)が、球速150キロで顔面狙いレベルの危険球をぶん投げてきた。現在公開中の『ホットギミック ガールミーツボーイ』である。頭でっかちで自意識過剰な文化系女子の一部に、ほとんど依り代レベルで崇められてきた今までの山戸作品だが、本作に限っては男性諸氏も観たほうがいい。さまざまな意味で文化系男子の“仮想敵”である文化系女子が一番触れられたくない、“心のやらかい所”を知るのにうってつけの教材だからだ。
ヒロインは、17歳の女子高生・成田初(乃木坂46・堀未央奈)。彼女が、【1】幼馴染みで現在は人気男性モデル、【2】登場の瞬間から「妹とは腹違い」フラグ立てまくりのイケメン兄、【3】自分を奴隷扱いしてくる超優等生男子――の3人から、狂ったようにモテまくる物語である。
初は地味キャラで、トロくさくて、自己評価低め。弱みを握られたドSメガネ男子に求められるまま自分からキスしたり、幼馴染みの男にポルノ動画を撮られているのになぜか「ごめんね」と謝ったり、「私がバカでかわいくないだけ」と泣きじゃくったり、自分に想いを寄せている兄に「私、どうしても空っぽになっちゃう」とか言ってしまったり。セリフだけ文字起こしすると、どうにもエロゲー感が半端ない。
言葉を選ばず言うなら、初はかなり「頭の働きが鈍い」ように見える。そして「頭の働きが鈍い」ゆえに、自意識の駆動にまで手が回っていないようにも見える。
ここで、2019年現在においては最大級の慎重さをもって取り扱わざるを得ない、男性特有のの性的嗜好に言及したい。「頭の働きが鈍い(≒年齢相応の精神性に達していない)女性に魅力を感じる」という例のアレだ。坂口安吾の『白痴』や手塚治虫の『奇子』などでも描かれているように、自身の艶やかな肉体や外見的魅力に無自覚である女性に対してエロスを感じる男性は、いつの時代にも一定数いる。現代日本のアニメ・ゲーム文化においても、複数用意された女性キャラの中に大抵ひとりは「自分のかわいさに無自覚な少(幼)女」が配置されがち。これは慣習なのか、様式美なのか、伝統なのか。
彼女たちは“ピュア”“天然”“無垢”といった口当たりのいい属性を与えられることで、「浮世離れしている」「生活の香りがしない」「所帯じみていない」「擦れていない」「世俗を超越している」といった“特別感”をも醸し出すことができる。これは完全に「俺は普通の女なんかとは釣り合わない」と高踏を気取る(イタい)男ホイホイではないか。