――出版不況が叫ばれる中で、それでもベストセラーは生まれ続けている。それに大きく寄与しているのは、なんといっても書籍広告だろう。新聞や交通広告、テレビやウェブなど、無意識のうちに書籍の広告を目にする機会は多い。こうした書籍広告の変遷を、識者のコメントを交えながら概観していく。
『この1冊ですべてわかる 新版 広告の基本』(日本実業出版社; 新版)
店頭に並べておけば本は売れる、といわれていた時代はとうに過ぎ、出版科学研究所の調べによれば、2018年1~12月の紙の雑誌と書籍の推定販売金額は、およそ1兆5400億円台。これはピークだった1996年の2兆6563億円の半分近くであり、内訳は雑誌が前年比でおよそ10パーセント減の5900億円前後、書籍が前年比およそ2パーセント減の7000億円となる。
雑誌に比べて書籍の下げ幅が小さいのは少数のベストセラーが売り上げを支えているからで、売れない本はまったく売れない。そもそも総務省統計局が発表したデータによれば、17年度の書籍の出版点数は7万5412点。これだけの数にまで膨れ上がると、一度も書店の店頭に並べられないまま、取次へと返本される新刊書籍も少なくない。
こうした事態にあって、出版社各社は読者に新刊を知ってもらうための宣伝活動に力を入れている。中堅出版社で営業、宣伝を担当していた業界関係者のA氏は語る。
「かつて書籍の宣伝といえば、自社の雑誌媒体への出稿やパブ記事を書いてもらえるように情報誌や関係者に献本するのが定番でした。書籍は、販売単価が安いので単独で力のある媒体に出稿できるほど広告費を出すのは難しい。だから、書籍の広告を出す場合には、部署や会社単位で広告費を捻出し、これという作品に広告費を集中させる傾向にあります」
経営面で考えれば、期待できる作品に宣伝広告費を集中させることは理にかなっている。一方で、書籍が溢れかえる昨今、宣伝や広告がなければ、その本は自然と埋もれて存在感を失う、ともいえる。
ちなみに、A氏が以前勤めていた出版社では、一般文芸書を外部の媒体に掲載するための広告費は、同出版社の利益の大半をあげていたマンガ部門の売上から捻出していたという。それほどまでに、現在は“書籍を売るための広告”は必要不可欠なものとなっているのだ。そんな書籍広告の変遷について見ていこう。