――樹木希林、最後の出演作の監督を直々に任されたニューヨーク在住の写真家は、手書きの手紙を送ることで「他人には信じてもらえないような」経歴を残していく。
(写真/永峰拓也)
「迷ってる時間はない。今、決めてほしいのよ」――名優からのオファーは唐突だった。
昨年亡くなった女優の樹木希林は生前、最初で最後のプロデュース作として、娘同様にかわいがってきた浅田美代子を主演に据えた映画『エリカ38』を企画し、今月7日から公開されている。
同作の監督を務めたのが日比遊一。本職はニューヨーク在住の写真家だが、2016年に高倉健を追ったドキュメンタリー映画『健さん』を監督して世界中で話題になった。というのも、同作にはマーティン・スコセッシをはじめとした世界の映画業界における巨匠たちが数多く出演していたからだ。
「僕は大事なオファーは必ず手書きの手紙でします。メールや印刷したファックスではダメです。『健さん』に出演してくれたマイケル・ダグラスとも、40通以上やりとりしたと思いますよ」
現在は写真家と監督として活動する日比だが、もともとは役者として芸能の世界に足を踏み入れたという。デビュー作は黒澤明監督の『乱』(85年)だ。
「日活撮影所の中にある演技学校を出たのですが、その時に黒澤監督と仲良くさせていただいて、その流れで出演することになりました。あと、これもまた、他人には信じてもらいにくいのですが、僕が俳優としての道を広げるために渡米するきっかけも、よく飲みに連れてってくださった、松田優作さんに勧められたからなんです」