――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。
「専業主婦」。2019年現在、これほどまでにジェンダー界隈で火種になるワードはなかろう。しかし先のGW中、「働く女性の声を受け『無職の専業主婦』の年金半額案も検討される」という、火種感満載のネットニュースが駆けめぐった。「週刊ポスト」2019年5月3・10日号の記事を「マネーポストWEB」が転載したものである。
基本をおさらいしよう。サラリーマンの妻で無職の者(≒専業主婦)は、夫の厚生年金に加入する「第3号被保険者」と呼ばれ、年金保険料を払わずとも老後に基礎年金を受け取ることができる。しかし年金財政がヤバいことになっている今、政府が制度の見直しを図っているというのだ。
ただし、世の強めな女性論客たちが食いついたのは、見直し案自体ではなかった。記事中にある「共稼ぎの妻や働く独身女性などから『保険料を負担せずに年金受給は不公平』という不満が根強くあり」というくだりだ。「おいおい、勝手に『働く女性vs専業主婦』の対立構図作って面白がってんじゃねえよ!」……ごもっともである。
が、筆者には別の観点で意見がある。介護ほかもろもろの事情で専業主婦業を余儀なくされている女性を除けば、2019年現在、永続的に専業主婦を続けられる女性は、か・な・り選ばれしセレブではなかろうか。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の資料によると、2018年現在、日本では共働き世帯が1219万世帯に対して、専業主婦(パート、アルバイト含まず)世帯は600万世帯。3世帯に1世帯がピュア専業主婦である。意外に多い印象だが、それもそのはず。ここには60代後半以上の年長世代、すなわち「夫のシングルインカムでマイホームを手に入れつつ、子供2人を養うことができた幸福な世代」がたんまり含まれているからだ。しかも彼らが現在もらっている年金額は現在の30~40代が将来もらえる額よりずっと多い。
そこで、年代別の専業主婦率を見てみよう。総務省統計局の「就業構造基本調査」(2017年)によると、30~34歳の専業主婦の割合はたった17.1%だ。35~39歳で23.6%、40~44歳で19.0%。住居費の高い都市部ではさらに少ないだろう。しかも彼女たちの多くは、仕事復帰を控えて一時的に専業主婦状態なだけだ。
さらにググってみたところ、「子供1人の3人家族」の妻が生涯専業主婦でいられるのに必要な夫の年収は「30歳時点で700万円」という試算が目に入ってきた。dodaの平均年収ランキング2018年版によると、30歳男性の平均年収は439万円。なお、30代全体の男女で700万円以上の年収があるのは9.4%しかいない。
つまり「30歳時点で年収700万円の夫」は完全に上級国民だ。一般庶民からすれば、ほぼファンタジーの領域。異世界に転生でもしない限り、そのスペックは手に入らない。「なろう系」小説の転生ものタイトル風に言うなら「俺の給料が爆上がりして嫁が専業主婦になれた件」である。