――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地
平成はなぜ失敗したのか (「失われた30年」の分析)(幻冬舎)
[今月のゲスト]
野口悠紀雄[一橋大学名誉教授]
5月1日から令和となり、30年続いた平成はその幕を閉じた。思えばバブル景気のさなかに始まり、冷戦終結、湾岸戦争、金融危機、2つの大地震、そして原発事故と、多くの出来事が起こった。そんな平成を、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は「日本が世界経済の大きな変化から取り残され、その国際的地位を右肩下がりに下げた30年だった」という――。
神保 世は御代替わりのただ中で、元号や天皇制などの話題も尽きませんが、今回はあえて平成という時代を経済面から振り返ってみたいと思います。ゲストをご紹介します。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんです。
以前、ご出演いただいた際には、ドゥームズデイ(国家が財政破綻する日)について、怖いお話をうかがいました。また、最近ではブロックチェーンのお話も記憶に新しいところです。
ただ、野口さんは最近、『平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析』(幻冬舎)という本を出されました。メディアでも「平成振り返り企画」は数多ありますが、どれも美化するような話や懐かしむものが多く、失敗論みたいなものはほとんど見かけません。その中で野口さんの本には明確に、「平成は失敗だった」と書かれています。
宮台 野口さんは非常にオーソドックスに、リフレ派の正反対で、基本的に技術革新を促す産業構造改革によって労働生産性を上げ、潜在生産力を上げることでしか国際競争力を保つことはできないと、ずっとおっしゃっている。そして、アメリカと中国が5Gや顔認証など、新たな技術をめぐって産業構造改革の競争をしているときに、日本は震災以降のエネルギー政策が典型であるように、役人や政治家が既得権益にへばりつき、改革を徹底して妨害した結果、実質賃金は少なくとも過去25年間、下がりに下がり続けています。
とにかく、野口さんが10年近く、厳しくおっしゃっていた通りの展開になり、いまだにリフレ派が傷のなめ合いをしている。本当に情けない国だと思います。
神保 まず、野口さんの本の結論として、平成は「日本が世界経済の大きな変化に気づけず、世界から取り残されて、国際的地位が大幅に低下した30年」と、勝手にまとめさせていただきました。野口さん、過不足あればお願いします。
野口 これに尽きますね。重要なのは世界経済が大きく変わり、日本がそれに気がつかなかったこと。つまり、日本は「努力したが追いつけなかった」のではない。それがわからず、いつの間にか取り残されていた、というのが強調したい点です。
神保 なるほど。その失敗の検証なしに前進はできず、せっかく新たな元号が始まるので、そのきっかけにしたいところです。まず、消費税(3%)導入から始まる平成の経済動向について、ポイントをうかがいたいと思います。
野口 事件としては、いろいろなことがありました。バブルが崩壊し、90年代の終わりに金融危機が起こって、金融機関が潰れた。2000年代に入るとリーマンショックが起こり、また金融危機がある。経済にこういう変動はあるものですが、その中で一貫して続いているのは、日本の、世界の中での地位が下がり続けているということです。「いろいろあった」ことより、「この30年間続いて同じことが起きている」ことを強調したい。
宮台 野口先生の本を読むと、至るところに本当はやるべきことがあったのだとよくわかります。ですが、肝心なところでなすべきことができていない、ということが一貫して続いているのが面白いですね。おそらくこの調子でこれからも続き、日本のステータスの低下はますます進むだろうと。
野口 そうですね。要するに、そういう危機感があるかどうかということです。先ほど5Gとおっしゃいましたが、これにより世界が変わるといわれている中で、日本がどうなっているか。かつて世界を制覇した日本の通信機器のシェアは、すでに2%まで落ちてしまっています。これはとんでもないことだからなんとかしなければ、と本当は思わなければならないのですが、そういう声がまったく出てこない。
神保 「5Gで世の中はこう変わる」みたいな話ばかりですね。
野口 特に中国との関係を見るとどうか。平成が始まったとき、中国はほとんど取るに足らない存在でしたが、その後、GDPがどんどん成長し、日本に追いつき、今はだいたい2・7倍になっている。中国の成長率が高いのは、ある意味では当然です。つまり、農業社会が工業化するときには高い成長率で伸びる。日本にも高度成長期がありました。しかし、アメリカは先進国ですが成長を続けており、日本との差は開くばかり。平成の初めには日本は世界でもっとも豊かな国で、一人当たりのGDPはアメリカより高かったんです。中国もそうですが、先進国であるアメリカと比較しても今や日本は遅れている、というのが重要な点です。