『Victory Lap』
ニプシー・ハッスル(販売元:Atlantic Records)
そんなチャートの中で際立つのは「ラッパーらしいラッパー」、ニプシー・ハッスルだ。05年からミックステープを連発してきたが、実はこれが初の正式アルバム。「Rap Niggas」を聴けば、彼が「西海岸らしい西海岸ラッパー」でもあることがわかるだろう。現代では稀なリリシズムを感じる傑作。これからという時期に、嗚呼。
昨年6月、TBSラジオ『アフター6ジャンクション』にて。私がかけた防弾少年団「Love Maze」を聴いたあと、佐々木士郎(君たちが呼ぶところのRHYMESTER宇多丸)は、「今やアメリカでも廃れちゃった部類の、みんなが好きなR&B」と評した。
そう、「廃れちゃった」のである。
というわけで前号に引き続き、「アメリカにおけるR&Bの危機」について考える今回。まずは、5月初頭の「ビルボード」トップR&B/ヒップホップ・アルバム・チャートを見てみよう。
1位はカリード『Free Spirit』、2位はビヨンセのライブ・アルバム『Homecoming: The Live Album』。3位がニプシー・ハッスル(合掌)の最初にして最後(嗚呼)の正式アルバム『Victory Lap』を挟んで、4位はジュース・ワールド『Death Race For Love』、5位はまたもビヨンセで『Lemonade』。
と、ここまではR&B勢が多数派を占める。私が主張する「R&Bの危機」が絵空事のように映るかもしれない。