――“ブス作品”が描き出そうとしているものとは一体なんなのか? 『人生を狂わす名著50』(ライツ社)などで知られる書評家の三宅香帆氏に“ブス作品”4作の短評を執筆してもらった。
[小説] 木嶋佳苗事件がモチーフに
【1】『BUTTER』
著者:柚木麻子
出版社:新潮社
価格:1728円(税込)
刊行年:2017年
『ランチのアッコちゃん』(双葉社)や『ナイルパーチの女子会』(文藝春秋)など、女性性をテーマに据えた作風で知られる作家・柚木麻子氏による長編小説。週刊誌の記者として働く町田里佳は、かつて交際していた男性3人の殺害容疑で逮捕された梶井真奈子、通称「カジマナ」への取材を試みるも、面会を通じて徐々に「カジマナ」の影響を受けていき……。なお、本作について木嶋佳苗は自身のものとされるブログ上で批判を展開している。第157回直木三十五賞候補作。
[三宅評]
本書には、通称「婚活殺人事件」の犯人である木嶋佳苗氏をモデルにした「カジマナ」という女性が登場する。ブスだけど色気がある、ブスだけどモテる……本書の中では、カジマナに対して「なんでブスなのに愛されてるの?」と男性も女性も疑問を抱く。実際、カジマナを愛する男性たちは、カジマナを崇拝しつつどこかで「ブスなのに俺は好きになってやった」と蔑視を向ける。そしてカジマナ自身も「こんな技に引っかかるなんてちょろい」と男性たちを下に見る。恋愛とはそもそも対等な関係の延長線上にあるはずだが、「容姿に恵まれない女性が愛されている」だけで、そこに上下の関係を作り出してしまう人々がいることを、『BUTTER』は発見している。