――アメリカで大麻を合法化する州が相次いでいることは、日本でもしばしば報じられる。一方で、オキシコンチンやフェンタニルといった鎮痛薬、ザナックスと呼ばれる抗不安薬の乱用が社会問題化している。こうした“処方ドラッグ”の蔓延と大麻解禁が同時に進行するかの国は今、どうなってるの!?
米LAの個人宅で栽培されている大麻草。もちろん合法!
近年、アメリカで医療用・嗜好用の大麻の合法化が進んでいる。特に2016年11月の大統領選挙に合わせて行われた住民投票で、カリフォルニア州を含む4つの州で新たに嗜好用大麻の合法化が可決されたことは大きく報じられた。また18年11月の中間選挙でも、ミズーリ州とユタ州で医療用大麻が、ミシガン州で嗜好用大麻がそれぞれ住民投票の結果、合法化。これにより19年1月現在、アメリカ50州のうち首都ワシントンD.C.と33州で医療用大麻が、10州で嗜好用大麻が合法化されている。
他方で、アメリカでは10年代後半よりオピオイド系鎮痛薬への依存症が社会問題化している。オピオイドとは、ケシの実(アヘン)から生成される麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などの総称である。日本ではモルヒネがよく知られているが、アメリカではこのモルヒネの1・5倍の鎮痛作用があるオキシコドンや、モルヒネの50~100倍の鎮痛作用があるフェンタニル【1】などの合成オピオイドの依存者が急増し、1日平均150人以上が過剰摂取で死亡しているとされる。これを受け、17年10月にはトランプ大統領が“オピオイド・クライシス”を公衆衛生上の非常事態と宣言した。
かつて非合法だった大麻の合法化が進む裏で、医師によって合法的に出された“処方ドラッグ”であるオピオイド系鎮痛薬への依存が蔓延しているわけだが、両者の動きをどうとらえるべきか。
まず、アメリカでの嗜好用大麻合法化について、『大麻解禁の真実』(宝島社)を著したジャーナリストの矢部武氏によれば、その背景には主に3つの要因があるという。
「ひとつは、医療用大麻の普及です。アメリカでは1996年にカリフォルニア州で初めて医療用大麻が合法化され、以降その効果が広く知られるようになりました。その過程で、大麻の健康被害が思ったより小さいことが明らかになったのが2つの目の要因です。そして3つ目が、大麻を取り締まるための社会的、経済的コストが大きすぎること。アメリカでは年間60万~70万人が大麻の所持や使用で逮捕されているのですが、彼らを刑務所に収容するにも費用がかかるし、逮捕された人数分の労働力や税収も失われてしまう。また、逮捕者の圧倒的多数が黒人であるため、人種間の不平等を生んでもいます」
一方で、「大麻はゲートウェイ・ドラッグである」として合法化に反対する動きも根強くある。要は、大麻のようなソフト・ドラッグが、ヘロインやコカインなどのハード・ドラッグの入口になるのではないかというわけだ。