――すべてのビール党に捧ぐ、読むほどに酩酊する個性豊かな紳士録。
「タルマーリー」を全国区の人気店に育て上げた渡邉格さん&麻里子さんご夫妻。格さんの著書、『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社)も好評発売中。
ビールとは、酵母(イースト菌)で麦芽を発酵させて造るもの。実はこれは、パンの製法とよく似ている。ドイツでは、ビールを「飲むパン」と表現することがあるほどだ。
つまり、パンとビールは非常に親和性が高いわけだが、実際にビール造りに乗り出したパン屋がある。現在は鳥取県智頭町に拠点を置く「タルマーリー」だ。
元はサラリーマンだった渡邉格さんが、パン職人の道に転向したのは31歳の時のこと。そして2008年には千葉県いすみ市で、伴侶の麻里子さんと共に「タルマーリー」をオープン。天然酵母にこだわったパン造りが話題を集め、2人はこれをあっという間に全国区の人気店に押し上げてしまう。製パン業界において、今やその知名度は伝説的と言っていい。
その後、「タルマーリー」はより良質な環境を求めて、11年に岡山県真庭市勝山に移転。現在の鳥取は、はや3つ目の拠点ということになる。
「酵母や麹、乳酸菌など、発酵に関わるすべての菌を天然で賄おうと思ったら、どうしても田舎へ向かわざるを得なかったんです。といってもいつも行き当たりばったりで、勝山に移った時も、古い町並みが残った地域ならなんとなくいい菌が採れそうな気がして、イメージだけで行動してしまいました」
そう振り返って笑う格さん。聞けば、10代の頃はパンクロッカーとして大暴れしていたそうだから、そんな直感的な生き方もなんだか納得してしまう。
対象的にしっかり者なのが麻里子さんだ。しばしば「違うでしょ。すぐ話を盛るのはやめなさい!」とピシャリ。仲良きことは美しきかな。実にいいコンビなのである。
さて、天然酵母のパン屋さんとして知名度を上げていく一方で、格さんは少しずつビールへの関心を高めていく。きっかけはパン造りにビール酵母を使い始めたことだった。