――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった?生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉
この作家が1998年に竹書房「まんがライフ」の表紙&巻頭カラーで固定されたことが、ジャンルの大きな転換だったのかもしれない。
11月に行われた、芳文社の萌え系ストーリー4コマ誌「まんがタイムきらら」の展覧会が、開場時間を連日繰り上げるほど大盛況だったそうで、いろいろと感慨深いものがあった。このジャンルは深夜アニメで人気を博した『けいおん!』『ひだまりスケッチ』が有名だが、5人程度の美少女コミュニティに部活や職業のノウハウを嵌め込み、大喜利のように展開するフォーマットで量産され、描けない部活や職業を考えるのが難しいほど多彩でありながら、作中に男性がほとんど登場しない特異さから「男性向け少女マンガ」としての役割も担っている。このあたり、女性読者も多いので説明が難しいが、ストレスフリーに最適化された美少女を眺めるソフトコアがジャンルの求心力となっており、その背景には90年代末の「萌えキャラ」ブームがある。当時はブロッコリーの「デ・ジ・キャラット」、東北電力の「えここ」こと「アイスちゃん」、デスクトップアクセサリーのクローンソフトだった「偽春菜」などが人気を博したが、どれも幼年向け少女マンガの絵柄で描かれた幼女系マスコットキャラクターで、パソコン通信からウェブへ移行したアングラな過渡期に80年代のロリコンブームが再燃したようだった。ただ、これらの人造美少女群は男性の人形遊びに最適化され、実在の幼女とはかけ離れていたから、既存の物語フォーマットとの相性は良くなかった。本質が人形遊びなので、男性の視点が入ると破綻してしまうのだ。現在のストーリー4コマに男性がいないのはこれで、読者は神の視点で美少女たちが暮らす箱庭を眺めているので、男性向けでありつつも女性が描き、女性も楽しんでいる。
さらに源流を辿ると、筆者はかつて世話になった「奇人の先輩」を思い出す。90年代のゲームセンターには攻略情報を交換するための交流ノートがあったが、MADビデオを作る同人サークルを主宰していた彼もノートを介して出会った。異なるアニメの映像を繋ぎ合わせて笑いを取るパロディを面白がった筆者は、制作現場へ遊びに行くようになり、ジョグダイヤルのコマ送りでビデオ素材を拾うのを眺めていたが、彼が好きなものに4コママンガ誌があった。当時の主力は植田まさし系のサラリーマン生活ギャグだったが、彼は丹沢恵という女性マンガ家を熱く語っていた。確かに4コマで起承転結を作って笑いを取るのではなく、ストーリーマンガを4コマで割る構成は印象に残ったが、4コマの繰り返しはどうしても薄味になるし、絵柄もシンプルだったので、当時は「ヘンな趣味だな」としか思わなかった。まだ90年代初頭の話だ。