――映画『アベンジャーズ』シリーズをはじめ、日本でも大ヒットを飛ばすようになったマーベル・コミックの作品群たち。これらマーベル作品の多くを生み出した編集者・ライターのスタン・リー氏が11月、この世を去った。アメコミ・ヒーローの礎を築いたアメコミ界一の御大の生涯と実像を見ていこう。
スタン・リーが生み出したスパイダーマンやアイアンマンといったスーパーヒーローたちは、今や世界中でファンから愛されるようになっている。(写真:Keizo Mori/UPI Photo via Newscom)
去る11月12日、アメリカンコミックスの伝説的なライター(原作者)のひとり、スタン・リー氏が95歳で逝去した。彼はスパイダーマンやX-MENほか数多くのスーパーヒーローを生み出し、「アメコミの世界に革命をもたらした」と称される人物である。彼がいなければ、今日の人気映画『アベンジャーズ』シリーズなどはこの世に誕生しなかった。本稿では、そんな彼の足跡をたどりながら、その実像を明らかにしていこう。
スタン・リーことスタンリー・マーティン・リーバーは、1922年、アメリカはニューヨーク州マンハッタンでルーマニア系ユダヤ人の家庭に生まれた。やがて訪れた世界恐慌の影響で、10代での就労を余儀なくされた彼は、39年に親戚のマーティン・グッドマンが経営する出版社タイムリー・コミックスに入社することとなる。
当時、学歴もコネもないユダヤ系の若者は、30年代前半に興ったばかりのアメコミの世界に流入していたのだという。41年にスタン・リーは、後にマーベル・コミックへと改称する同社で雑務をこなしながら、ヒットシリーズだった『キャプテン・アメリカ・コミックス』第3号で短いテキストを任され、編集だけでなくアメコミのライターとしてのデビューを果たす。この時つけたペンネームが“スタン・リー”だった。なお本名は後日、一般的な小説家としてデビューする際のために取っておくつもりだったと伝えられる(後年、本名もペンネームのスタン・リーに改名)。当時すでにスーパーマンやバットマン、キャプテン・アメリカなどのヒット作によって、後に“ゴールデンエイジ”と呼ばれるアメコミの第1次ブームが到来していたが、世間のアメコミに対する評価は低く、アメコミで本名を公開しないというスタンスには多少のコンプレックスもうかがえる。
そんな中、編集とライターを兼ねながら入社からおよそ2年で編集長にまで昇格したスタン・リーだが、第二次世界大戦中の42年には陸軍に志願。配置されたのは、新兵教育用の映画やマニュアル、戦意高揚のためのスローガンを作成するための教育映画製作部門だった。
かつてマーベルの極東オフィスに出向した経験を持ち、株式会社ウィーヴでアメコミの邦訳出版を手がける石川裕人氏は、この時のスタン・リーの心中について、こう推測する。
「そこにはフランク・キャプラやウィリアム・サローヤンといった映画界や演劇界、いわゆるメインカルチャーの巨匠も配属されていました。コミック界の代表だったスタン・リーは、自然と自分の立ち位置と比較して、感じるところがあったのではないでしょうか」