サイゾーpremium  > 特集2  > 【石丸元章×海猫沢めろん×MC漢×菊地成孔】対談

――『ヴァイナル文學選書』という掌編小説シリーズが話題だ。その第1弾「新宿歌舞伎町篇」に作品を寄せたのは、石丸元章、漢 a.k.a GAMI、海猫沢めろん、菊地成孔という“異能作家”たち。この4人が、エクストリームな“文学論”をぶち上げる!

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(写真/渡部幸和)

 去る10月19日、異色の掌編小説シリーズ『ヴァイナル文學選書』(東京キララ社)の第1弾が刊行された。ビニール(=ヴァイナル)にパッケージされた40枚の掌編は、製本されておらず、すべてのページがバラバラのまま封じ込められている。物語は特定の街を舞台にしており、その街の限られた店舗でしか入手することができない。

 今回は「新宿歌舞伎町篇」として4作が同時リリース。ゴンゾ・ジャーナリストの石丸元章、小説家の海猫沢めろん、ラッパーの漢 a.k.a. GAMI、ジャズメンの菊地成孔という4人が、新宿歌舞伎町を舞台にそれぞれの物語を紡いだ。

 石丸の『聖パウラ』は、ドラッグの購入資金を得るために盗みを繰り返す外国人女性・パウラを無機的な筆致でルポルタージュを綴るように描いている。海猫沢の『鬼畜系ゲームブック熊猫』は、何者かに監禁された男の脱出ゲーム。選択肢によって違うストーリーと結末が待っており、ページがバラバラの本ならではの新しい文学のスタイルを提唱している。漢の『北新宿2055』は2055年を舞台に、北新宿で生まれ育ったK氏が、ジャーナリストのインタビュー形式で街の因習を語る。菊地の『あたしを溺れさせて。そして溺れ死ぬあたしを見ていて』は、溺れる女性を見るのが好きな男と溺れる姿を見せたい女性の異常な欲望を細かな描写で積み重ねた。“新宿歌舞伎町”をテーマにしながら、4人とも内容から文体、形式までそれぞれの個性を存分に表現している。

 この企画の発案者である石丸は、次のように話す。

「今、文学が売れていない。だけど、ある1冊に出会ったことで人生が変わる、世の中の見え方が変わってしまうこともある。文学は、それくらい面白くて恐ろしいものなのに、なぜ読まれないかと考えたら、1冊が長いからではないかと思い至った。短くても胸に届くものがあればいい」

 さらに強くこだわった点がある。“朗読”である。

「文学は読者が作品と一対一で向き合うものだけど、誰かと共有する形として朗読がある。掌編なら30分ほどで朗読できる。著者本人が読んでもいいし、誰かが自分の好きなヴァイナル文學を読んで共有してもいい。文学における朗読の可能性を追求すれば、今までの本とまったく違うものになるはず」

 こうしたコンセプトのもとに書き上げられた4つの掌編。袋入りのため出版の流通には乗りにくいが、舞台となった街に足を運ばなければ手に入れられないものにすることで、電子書籍やアマゾンで購入できる“情報”ではなく、“物質”としての重みがある『ヴァイナル文學選書』として世に放たれた。それぞれの作家はこの作品にどのような可能性を見いだし、どのようなアイデアを込めたのだろうか? “文学”“新宿”“朗読”をテーマに4人が語り合った。

ひとりが死ぬほど読みたければいい

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