電力業界が陥る自由化という罠
2016年のいわゆる電力自由化以降、新電力と呼ばれる事業者がどっと増え、業界の構造は変革されたように見える。しかしながら、従来の大手電力会社が市場を牛耳っており、およそ平等といえる状況ではない。新たに参入した小売電気事業者は過酷な価格競争に晒され、悲鳴を上げているという。なぜ、こんなことになってしまった!?
『電力の大問題―週刊東洋経済eビジネス新書No.253』(東洋経済新報社)
「電力自由化といっても形ばかり!」と、新電力の悲鳴が聞こえてくる。2016年4月、電気事業者の区分が「発電事業者」「送配電事業者」「小売電気事業者」の3区分に再編され、電気の小売りが全面自由化されて2年半。多様な企業が参入し、小売電気事業者数は現在500を超える。1995年から自由化されている発電は、発電事業者だけでなく一般家庭や自治体が売電するケースもあるため、数え切れない。一般送配電事業者は、東京電力ホールディングスの子会社である東京電力パワーグリッド(東電PG)【1】ほか、関西電力など従来の電力会社が担っている。
ある小売電気事業関係者は言う。
「電気は究極のコモディティ。新電力、東電、どこから電気を買っても品質は変わらないので、基本的に価格競争をするしかない。東京ガスはガスとセット、ソフトバンクはスマホやネットとセットにすることで、お得感を打ち出しています。電気のみを販売する新電力は、電気をいかに安く仕入れ、管理コストを減らして消費者に届けるかがポイントです」
旧新電力と呼ばれる、ENEOSでんき(JXTGエネルギー)は、新電力ではあるが00年からの段階的自由化を受け、03年には電力事業に参入し、製油所の近くに自社保有のLNG(液化天然ガス)や石油による発電施設を持つ。東京ガスも新電力では最大級のLNG火力発電所を有する。こうした自社発電所を持たない多くの新電力はどこから電気を仕入れるかといえば、国内唯一の電力市場「日本卸電力取引所(JEPX)」【2】である。ここで30分単位で電気が売買されているが、電力市場に詳しい事情通によれば、「価格変動はものすごく激しい」。