――2018年、アジア音楽史に歴史的な記録を打ち立てたアイドルグループ「防弾少年団(BTS)」。彼らの何がそんなにすごいのか? アジアのみならずアメリカも熱狂させる、防弾少年団とK-POPの“凄味”を研究する。
(絵/サイトウユウスケ)
2018年のアジアにおける音楽業界の大きなトピックといえば、5月にK-POPグループ「防弾少年団」(以下、BTS)が、アルバム『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』で米ビルボードのアルバムチャート「ビルボード200」に初登場し、1位を獲得したことだろう。同チャートでの1位獲得はアジア圏のアーティストとしても史上初の快挙だ。
BTSが日本のメディアを騒がせたのは、今年9月のこと。日本でリリースされるシングルで秋元康とコラボすることが発表されるや、SNS上で炎上。「右翼、女性蔑視にかかわる作詞家とのコラボはイメージダウンにつながる」という韓国のファンの声を受け、3日後には中止が発表された。
このニュースに、「また韓国のアイドルが何かやらかしたのか」程度の感想しか抱かない読者諸氏も多いだろう。しかし、BTSのファンにとって今のタイミングでのイメージダウンは、絶対に回避すべき問題だった。日本の音楽界が小室哲哉や安室奈美恵の引退で黄昏を迎えつつある一方、お隣韓国ではBTSの成し遂げようとするアメリカン・ドリームに沸き立っていたからだ。
彼らが打ち立てた快挙は、冒頭に挙げたビルボード1位だけではない。6月には、米TIME誌が発表した「ネット上で最も影響力のある25人」に、トランプ米大統領、カニエ・ウェストなどと共に選出。アメリカのバラエティ番組にも出演が相次いだ。その後も『LOVE YOURSELF 結'Answer'』で「ビルボード200」の2度目の1位を獲得。アメリカの人気ラッパー、ニッキー・ミナージュをフィーチャーした「IDOL」で、米ビルボードのシングルチャート「HOT100」に初登場で11位にランクインするなど、快進撃を続けている。最近では、ニューヨーク国連本部で開かれたユニセフの行事に招かれ、そこでリーダー・RMが流暢な英語でスピーチを披露。20代前半の彼から語られた真摯なメッセージに、世界中から称賛の声が上がった。
2000年代から日本をはじめアジアで起こったK-POPブームは、現在ブラジルなどの南米にも波及し、BTSはそれをけん引する存在として、これまでにない規模のブレイクを遂げている。彼らは、今までのK-POPアーティストたちとどう違うのだろうか。BTSが時代に愛された理由を紐解いてみよう。
BTSは13年6月にデビューした7人組グループだ。所属事務所は韓国3大芸能事務所のひとつ、JYPエンターテインメント(以下、JYP)から独立した音楽プロデューサーのパン・シヒョクが、05年に設立したBigHitエンターテインメント(以下、BigHit)。BTSはBigHitが初めて1から作り出したグループだった。アイドルグループはまずスタートが大事といわれる韓国芸能界において、BTSのデビューはあまり華々しいものとはいえず、ヒット曲に恵まれない不遇な時期もあったが、15年にリリースした「I NEED U」が韓国でヒット。以後、スターダムを駆け上がり、今では不動の人気を誇っている。
彼らの持ち味には、ヒップホップを中心にR&B、EDMなどの最新トレンドを取り入れた楽曲と、シンクロ率の高いダンスが挙げられる。全員が作詞・作曲・プロデュースを行っているため「自作ドル」と呼ばれ、その芸達者ぶりも評価されている。しかし、「トレンド色の強い楽曲、ダンスの実力、自作力は、ほかのK-POPグループだって身につけていること。BTSがほかと一線を画するのは、彼らが持つメッセージ性にあります」と語るのは、K-POPに詳しいライターの酒井美絵子氏だ。