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●固定系超高速ブロードバンド整備率の推移(全国及び下位10道府県) ※2017年3月末調査では地域データの精密化、事業者の整備状況報告基準の見直し等を実施しており、2016年3月末調査までとは算出方法が異なる。(総務省「ICTインフラ地域展開戦略検討会議」より)
――ビットコインバブルははじけたけれど、どっこいブロックチェーン技術そのものへの期待は、実のところしぼむどころか膨らむ一方。いろんな企業やエンジニアやスタートアップが、ブロックチェーンをいろんな分野で活用すべく研究開発に取り組んでいる。そんな中でも、ブロックチェーンを生かすのに最適だといわれているのが、電力などのエネルギー分野。この領域で一体全体どんなメリットがあるのか? そして勝算はあるのか?
クロサカ 本連載でブロックチェーンを最初に取り上げてから2年がたち、その間にビットコインバブルなどさまざまなことがありました。しかし、その技術の重要さと可能性は揺らぐことがなく、各所で挑戦が続いています。今月は、ブロックチェーンの電力業界への導入にチャレンジしているベンチャー企業、TRENDE(トレンディ)の妹尾賢俊さんをお招きしました。
妹尾 僕は新卒で銀行に入り、その後フィンテックベンチャーを立ち上げるなど、金融の世界に20年いました。TRENDEを始めて「なぜ金融から電力に?」とよく聞かれるんですが、僕の中ではまったく同じ。テクノロジーを使って、顧客重視で新しいUXを届けるサービスという点で、一緒なんです。お客様のデータを集めて、ブロックチェーンによって記録と移転をし、AIによって分析するというプロセスは同じで、データを集めるところでスマートメーターやIoTで電気の使用状況を集めるか、銀行口座や電子マネーでお金の情報を集めるかという、技術の上に乗っているものが違うだけ。
クロサカ いろんな業界や企業が、ビジネスの基盤をITによって作り替えようとチャレンジしていますが、そこで使われている技術は共通する部分が多いですよね。具体的に電力業界をどのように変えようとしているんでしょうか?
TRENDEが提供する電気関連サービス「あしたでんき」と「ほっとでんき」。
妹尾 TRENDEのミッションは、再生可能エネルギーの普及と、それを実現させるためのP2P電力取引プラットフォームの構築です。今後、太陽光パネルも蓄電池も量産効果でどんどん価格が下がり、多くの家庭で導入されるでしょう。そうなると太陽光パネルで発電した電力を自家消費し、余った分を蓄電池やEVにため、それでも余ったらほかに売ることになる。そのときにTRENDEのプラットフォームを使って、まだそうした設備を持っていない一般家庭や、あるいは環境価値を重視する企業に「グリーンエネルギー」として売ることができる。それを実現するために、スマートメーターに秘密鍵を乗せてブロックチェーンを構築しようと、配電事業者と交渉しているところです。東京電力の子会社ということもあって、話を聞いてくれる事業者は多いので、何年かかるかはまだわかりませんが実現できるはずです。
クロサカ そうなると、発電所や送配電設備といった、既存の電力会社の役割は少しずつ小さくなっていきますよね。いわば、電力事業者は自分たちのビジネスを変えてしまうような子会社に投資していることになります。
妹尾 この流れは止められず、TRENDEがやらなくてもほかの誰かが実現するでしょう。そうなったとき、電力会社はどうやって利益を上げるのかというと、お客様の生活サイクルに合わせてカスタマイズした電気供給だったり、あるいは電気料金をただにする代わりにお客様の生活における電気使用状況のデータをいただいて、それをマネタイズするといった方向です。実は、家庭の電気の状況を詳細に調べると、消費電力だけじゃなくて、例えば電子レンジでどんな調理をしたのかといったこともわかります。さらにスマート家電が普及すれば、家庭内のさまざまな状況をリアルタイムでデータとして取ることができるんです。そのデータをQOLの向上や病気の予防や治療に使っていく。これは決して荒唐無稽な話じゃないんですよ。