——前編の最後で、『DTC -湯けむり純情篇- from HiGH&LOW』の隠し玉である立木文彦さんの出演経緯をうかがいましたが、それも含めた「公式による二次創作」感の所以について、もう少し聞かせてください。オタクとしては「SWORDの人たちは、きっとケンカのないときはこんな生活をしているはずだ」と妄想をしていたのが、それを全部公式が映画にしてきた感じがあって、いい意味で「ズルい!」と思ったんです。
上條 それはノリさんにしかできないことなんですよね。本編でも、ノリさんは役者とああしたほうがいい、こうしたほうがいい、っていう話をずっとしていて、それは俺からすると演出だと思う部分です。久保さんの色ももちろん入ってるけど、キャラづくりは結局ノリさん。だからそれで遊ぶのもノリさんにしかできない。DTC一人ひとりのキャラにしても、「そこは映らないよ」ってところまで作り込むんです。映画ではよく「ディテールに神は宿る」と言いますけど、そういう感じがあって、いいなと思います。ちょっとした遊びを常に考えてるんですよね。だから、脚本にはなかったのに現場で生まれたものがいっぱいあった。
たとえば、今回の作品だと、序盤の尾沢(天野浩成)のガレージのシーンで、チハルが入る前に屋敷のピンポンを押すんですけど、あれはノリさんが現場で決めたんです。役者も、何言われるか分からないから、すぐ対応できるようにずっと構えてるんですよ。俺、けっこうみんなから「どうしたらいいっすかね?」って相談されましたもん(笑)。
平沼 思いついちゃったら、やってほしいんですよ。絶対おもしろいから。確かに、現場での無茶振りは多かったな。
上條 役者たちに対応力がありますよね。やっぱり役者としての経験値が少ない分、演技の幅についてはそんなに手札がないんだけど、対応力はすごい。いきなり言ってもある程度応えますよね。「できない」とは言わないし。
——それはやっぱり、山下さんや大樹さんは特にパフォーマーなので、ライブで培ってきた度胸によるものなんですかね。
平沼 それもあるし、俺が先輩だっていうのもあると思う(笑)。
——LDHの縦社会……。演じる側も大変ですけど、撮る側も大変じゃないですか?
平沼 だから俺が粘りすぎると、上條が「ノリさん、次のシーン撮りたいですよね、もう時間ないですよ」って締めてくるんですよ。「いや、もう一回撮りたい」「『もう一回』。なぜ。何が原因ですか?」「わかんないけど、撮りたいんだよ!」「じゃあもう一回!」って怒られる。
渡辺 「明日雨ですけど?」とかね。
上條 怒ってないですよ! やっぱり現場としては、監督が撮りきらないと映画にならないので、ここで粘るべきなのか、本当に時間をかけるべき大事なところはどこなのかを常に確認しないと。
平沼 面白かったのが、尾沢のガレージで全員にトラックイン(カメラが移動して被写体に近づく撮影技法)していくシーンで、最初は尾沢だけ撮らなかったんですよ。でも「やっぱり尾沢のも要るな」って俺が言い出したら、上條が「要るんすか! 尾沢! ほんとに要ります!?」って。「いや、要る!」って言い張って結局撮って、最終的に編集したら「やっぱり要りましたねぇ」って上條が言ってくれて、そういうのがうれしいんですよ。あのときの「尾沢要ります!?」って言った上條は面白かったな~。
——尾沢が聞いたら複雑ですね。
平沼 尾沢には聞こえないようにやってました(笑)。上條がさっき言ったように、ハイローの現場が高カロリーなのはたしかにそうなんですよ。それは今まで誰もやらなかったことをやろうとしているからで、開拓していく作業には相当体力がいる。みんなで「ここを耕さないといけない」って一生懸命やってるけど、俺たちも「本来はどうやるの?」って聞きたいところはある。そこに、映画の現場の経験値が高い上條がいると、「本当はこうです」っていう意識がもたらされるんです。
——正攻法を教えてくれるわけですね。福田さんが加わったことでは、大きく変わったのはどういった部分ですか? 観ている側としては、『FINAL MISSION』の最後の山王連合会+九十九さんのシーンのように、コントっぽい笑いのとり方が入ってきたのは、福田さんの功績によるものなのかな、と思っていました。
平沼 キャラクターがどういうことを言って面白くするのかはもともと僕らも考えていましたけど、福田はそこに全然違う笑いの方向性を入れてくれるんですよ。DTCでいうと、「お湯」がそうですね(「HiGH&LOW THE DTC」第2話)。俺たちは「お湯」では1本書かないですから。俺たちがトライしないような笑いを書いてくれるので、それをハイローっぽくするにはどうしようか考える作業を繰り返していました。
福田 たぶん、最初に加わったときは、信用されてなかったんですよ、僕。「誰やねん、こいつ」って感じで。啓さんなんかはいまだにそうですけど。
渡辺 えっ、そんなことないよ、どうしたどうした(笑)。仲良くやっていこう?
福田 それで「HiGH&LOW THE DTC」を書いてちょっと信用されて、「こいつが言うんだったら面白いんじゃないか」って思ってもらえるようになったのが大きいと思います。