通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!
●主なメディアの平日1日の平均利用時間
出典:総務省情報通信政策研究所「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」
――視聴率も収益も右肩下がりの日本のテレビ局。そしてそこにやってきたNETFLIXにアマゾンにDAZNといった黒船たち。放送と通信の融合を掛け声に、法律こそ変わったものの肝心の放送業界のマインドは変わらないままでいたら、世界中で映像コンテンツの主役はネット企業へとシフトして、コンテンツ制作における力学も変化しつつある。日本のテレビ局はこの先、生き残るためにはどうすればいいのか。
クロサカ 今月のゲストは『テレビ最終戦争』(朝日新書)を上梓されたばかりの、大原通郎さんです。さっそくですが、放送業界、そして放送局で今、何が起きているのでしょうか。
大原 この本は、アマゾンやNETFLIXなどのIT業界が映像コンテンツの覇権を握りつつあり、特に、放送ビジネスを侵食している実態を解き明かしています。今、放送業界が直面しているこの状況は、放送局がデジタルとインターネットを甘く見ていた、そうした変化に積極的に対応する勇気がなかったことが原因だと思います。日本の放送市場は2兆円もあり、経営者は従来のままでやっていけると思っていたのです。このため新しいことにチャレンジする意思が薄かったと言えるのではないでしょうか? 制作現場には意欲的で優秀な人間がいたけど、彼らがやりたいと言っても「それは金になるのか?」と問われ、その時点では未知数なために潰されてしまいます。
クロサカ 例えばNHKは、ドラマの脚本制作時から著作権担当が脚本家に張りついていて、作品内で著作権処理が必要なシーンを事前チェックし、場合によってはそのシーンの差し替えを指示するようなこともあると聞きました。また民放では、あるドラマで事前に出演者から承諾を得なかったため、2次利用ができずビジネスを膨らませることができなかったそうです。
大原 テレビ局が後ろ向きなので、それ以上のビジネス展開をしないこともありました。放送したら、そのあとはDVD販売や国内の有料チャンネルに売ることくらいで海外に展開して大きくビジネスしようとはあまり考えてこなかったのです。欧米や韓国の放送局は、インターネット配信を含め番組を世界に売ろうと積極的に展開しています。しかしそうした発想は、残念ながら日本の放送局にはありませんでした。やはりこれまでは国内の広告費だけで十分に利益が上がっていたから、それ以上のことをするモチベーションがなかったからです。
クロサカ たまに海外の放送局と提携したり、番組を共同制作したりすることもありますよね。
大原 私が知る例でも、ある民放が東南アジアの国営放送局とドラマを共同制作しましたが、プロモーションも少ないし、そもそも放送が土曜日の昼間だったため、まったく注目を集めなかった。ほかにも、共同制作が頓挫したり、出資した現地のケーブルテレビむけ制作会社が経営破綻したりしていますね。
クロサカ 確かに振り返って見るといろいろあったにもかかわらず、何ひとつ残っていないような……。2006年に当時の竹中平蔵総務大臣が「通信・放送の在り方に関する懇談会」を開いて、野心的な提言がまとめられました。でも、その実現に向けた手がかりが見えてきたのは、ここ1~2年のことです。