法と犯罪と司法から、我が国のウラ側が見えてくる!! 治安悪化の嘘を喝破する希代の法社会学者が語る、警察・検察行政のウラにひそむ真の"意図"──。
袴田事件再審棄却!
2018年6月、東京高裁は、1966年に発生した「袴田事件」で死刑が確定した袴田巌さん(82)の再審請求を棄却。袴田さんは14年の静岡地裁による再審開始決定時に釈放されているが、今回の決定においても死刑・拘置の執行停止は維持された。弁護団は最高裁に特別抗告し、東京高裁の決定を厳しく批判している。
2018FIFAワールドカップロシア大会の開幕を間近に控えた2018年6月11日。国民やメディアの関心はサッカーばかりに向けられていましたが、少なくとも私にとっては、それよりはるかに注目に値する、重大な出来事がありました。1966年に静岡県で発生した強盗殺人放火事件、いわゆる「袴田事件」の再審開始決定が、東京高裁によって覆された一件です。
周知の通りこの事件では、元被告の袴田巌さんが死刑確定後も長年冤罪を訴え続け、14年にようやく静岡地裁で再審を認められて釈放されており、メディアでも大きく報じられました。10年に足利事件、11年に布川事件と、冤罪を疑われていた死刑確定事件の再審無罪判決が相次いでいただけに、報道では、袴田事件もそれに続くだろうとの予想が大勢を占めていました。ところが東京高裁は、再審開始に必要とされる新証拠の審理になぜか4年もの歳月を費やした揚げ句、再審請求自体を退けてしまった。かといって、元被告の釈放を取り消して再び拘置するわけでもない。おそらく国民の多くが、いったい何が起きたのかを理解できなかっただろうと思います。
しかし私には、今回のニュースに接した瞬間、裁判所と検察の思い描いた“シナリオ”がはっきりと見えてきました。そして、まさにこの一連の出来事こそ、これまで本連載でたびたび言及してきた、日本の検察・裁判所という組織の異常性を象徴している、と感じたのです。この一件についての考察をもって、本連載の最後を締めくくりたいと思います。
まずは改めて事件とその後の経緯について簡単におさらいしましょう。事件は66年、静岡県清水市(現静岡市)のみそ製造会社の専務宅で火災が発生し、焼け跡から一家4人の遺体が発見されたことから始まります。強盗殺人、放火、窃盗容疑で逮捕された同社従業員で元プロボクサーの袴田さん(当時30)は、当初犯行を否認していたものの、過酷な取り調べの末に自白。工場のタンク内で発見された衣類の血痕が決め手となって、68年に静岡地裁で死刑判決が下され、80年に最高裁の上告棄却により死刑が確定しました。