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更科修一郎の「批評なんてやめときな?」【38】

ベルトコンベア的に作られる個性なき作品群――幽霊、大人にならない老人の軽小説。

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――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった?生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉

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少年マンガではないライトノベルの可能性は、20年を経て俗情にすり潰され、哀しく蔑まれている。不気味な泡のように。

 器用なタレントに小説を書かせ、院外団な書店員と賢しらな編集者や書評家が一見、民主的な文学賞で下駄を履かせる一般文芸の手口も見抜かれたのか、とんと話題にならなくなった。結局は、青島幸男が直木賞を取った80年代のタレント本ブームの繰り返しで、あとは筒井康隆『大いなる助走』や小林信彦『悪魔の下回り』のように本屋大賞あたりの権威と醜聞をグロテスクに戯画化した小説が出ればオチがつくだろう。

 かくして、今回は「本」特集だが、一般文芸ではなく娯楽小説、それもライトノベルの話だ。もともと、娯楽小説の世界は作品本位であり、作家の名前で売れるケースは稀だったのだが、小説投稿サイトの台頭で世に出る作品数が飛躍的に増えた結果、ライトノベル界隈では何が売れるかわからなくなっている。マイナーなジャンルが淘汰され、同じジャンルの中で微妙な差異を競うカンブリア爆発で、商業レーベルの新人賞が機能不全に陥る一方で、小説投稿サイト発でオンラインRPGを題材とした『ログ・ホライズン』や『ソードアート・オンライン』などのヒットから、「小説家になろう」などの大手小説投稿サイトから人気作品を一本釣りすることが常態化している。これらをひと括りにした俗称が「なろう系」で、オンラインRPG風の作品を指すこともある。マンガで言えば、同人誌で売れている作家をスカウトするようなものだが、小説投稿サイトの人気上位であっても一銭も入らないから、スカウト自体は容易だ。

 とはいえ、粗製濫造というわけではない。大量の投稿小説がランキングを競っているので、小説技術は底上げされている。商業レーベルが一本釣りする人気作品なら、どれを読んでも文章や作劇は及第点で、20年前の一線級の水準と変わらない。まあ、いまや編集者はバイヤーなのだから、その程度の審美眼は持ってくれないと困るし、むしろ、これだけ書けるのにどうして凡庸な題材で書いているのだ、と首を捻ることのほうが多い。そのあたりは「異世界トラック転生」「チートハーレム」などと揶揄されているが、オンラインRPG風ファンタジーの定型の中でネタを競う大喜利のような小説が多いのは、設定描写を簡略化して物語のツカミを早くするためで、読者の側も世界観のオリジナリティに興味を示さなくなっているからだ。作品が多すぎるから、先行するヒット作の二番煎じであるほうがありがたいのだ。

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