――「88rising」というYouTubeチャンネルを知っているだろうか? 今、そこから配信されるラッパーをはじめとしたアジア人アーティストのMVが世界的にバズり、彼らはアメリカの音楽市場で続々と成功を収めている。このメディアの実態を、LA在住の音楽ライターであるバルーチャ・ハシム廣太郎がレポート!
リッチ・ブライアンのMV「Chaos」より。この出で立ちだけど、ラップはクール!
アメリカのエンターテインメント業界では、まだ人種差別が根強いことは明白だ。2016年のアカデミー賞でノミネートされた俳優が全員白人だったため、数々の著名なアフリカ系アメリカ人の監督や役者がボイコットする騒動が起きたのは記憶に新しい。また、日本のアニメ映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)を実写化したハリウッド映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』(17年)では、アニメ版で日本人だった主人公を白人のスカーレット・ヨハンソンが演じ、いわゆる“ホワイトウォッシング”問題が巻き起こった。このように、マイノリティがいまだに平等に扱われていないアメリカで、アジア人はさまざまなステレオタイプと戦わなければいけない。
そんな状況下、アジアン・カルチャーとヒップホップを融合させ、設立から数年で世界から注目を浴びるようになったのが、88risingというメディア制作会社だ。ニューヨーク(NY)、ロサンジェルス(LA)、上海にオフィスを構える同社のYouTubeチャンネルは、500時間以上の動画を公開し、約160万人の登録者数を誇る。その内容は、ミュージック・ビデオ(MV)から、日本のストリート・ファッションについてのショート・ドキュメンタリー、有名アーティストが仲間とカラオケをしてフザけている動画まで多様。ただ88risingは、こうしたビデオ制作のみならず、アーティストのマネジメント業務やレーベル運営なども行う。そんな会社を15年に創立したのが、韓国人と日本人のハーフで、サンフランシスコ・ベイエリア出身のショーン・ミヤシロだ。以前は、刺激的なカルチャーのドキュメンタリー動画などを配信するメディア会社VICEの、エレクトロニック・ミュージック・プラットフォーム「Thump」の立ち上げにかかわっていたという彼は、 「オレがVICEでやっていたようなことを、アジアン・カルチャーのためにやりたいと思ったんだ」(「Pitchfork」 17年6月8日付)と述べている。