エミール・デュルケームによる社会学の名著『自殺論』が発表されてから120年以上が経ったが、いまだに自殺はなくならない。当時と比べて世界的に豊かになったはずなのに、なぜ自殺は絶えないのだろうか? 心理学や精神医学の文脈で語られがちな自殺問題を、社会学的に考察してみよう。
警察庁の統計によると2017年、自ら命を絶った人の数は2万1302人(暫定値)。1998年~11年の14年間にわたって毎年3万人以上が自殺していた状態を考えると、1万人近く減少したのは政府の「自殺対策基本法」や「自殺総合対策大綱」が浸透してきているということだろう。しかしながら、世界保健機関(WHO)の統計に基づき厚生労働省が算出したデータによると、13年以降の「人口10万人当たりの自殺者数」を示す自殺死亡率において日本は19・5人。30・8人のリトアニアや28・5人の韓国などに続きワースト6位だった。
そもそも現代において自殺の増加が始まったのは98年から。97年に山一證券や北海道拓殖銀行が破綻し、日本全体が経済不況に陥ったことから98年は前年比で自殺者数が8000人も増え、ピーク時の03年には3万4427人もの人が自殺している。その後、前述の通り、数そのものは減少傾向にあるわけだが、一方では若者の自殺率が上昇するなど、その傾向に変化が見られている。
NPO法人ライフリンクが500人を超える自死遺族と協力して行った調査『自殺実態白書2013』によると、自殺の背景にはDV、失業、過労、いじめなど、自殺の危機要因となり得るものが 69個あり、自殺で亡くなった人はおよそ4個の危機要因を抱えていたという。つまり、人が自殺する要因というのは簡単に解明できるものではなく、「これをやれば自殺が減る」という決定的な手段はない。
「個人の自殺行動を研究するのであれば、心理学や精神医学のほうが専門分野です。ただ、『日本で97~98年にかけて自殺者数が激増した』とか、『ある国と比べてこの国は自殺率が高い』といった、社会全体の自殺を考えていく際には、社会学的に研究する必要があります」