――人気を博しているアメリカのラップ・ミュージックを聴くと、コカインやウィード(大麻)のような語句が登場する一方、ザナックスやリーン、パーコセットといった薬物も歌われる。そして、そうしたクスリの過剰摂取で命を落とすラッパーもいるのだ。今、米国のドラッグ・カルチャーは一体どうなっているのか――。
2017年11月にオーバードーズで他界したリル・ピープのアルバム『Come Over When You’re Sober, Pt. 1』。
2017年11月、アメリカの人気ラッパー、リル・ピープが21歳の若さで急逝した。その死因は、鎮痛麻薬フェンタニルと抗不安薬ザナックス【1】の過剰摂取。いずれも医師の処方箋があれば入手できる合法薬物だが、とりわけ後者のザナックスは米ヒップホップ界に蔓延している薬物だ(なお、フェンタニルは16年に死亡したプリンスの遺体から検出され、ザナックスは12年に死亡したホイットニー・ヒューストンの死因に関わりがあるとされている)。
事実、ピープの訃報に対し、リル・パンプ、XXXテンタシオン、リル・ウージー・ヴァートといったザナックスを愛用する同世代のラッパーたちも、インスタグラムやツイッターで反応。本稿では、このラップ・ミュージックを手がかりに、米国ドラッグ文化のありように迫りたい。
精神科医が処方を避けるザナックス
まずザナックスは米国でどう扱われているのか。ニューヨークで開業している精神科医・松木隆志氏はこう話す。
「ザナックスは、分類としてはベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬で、作用としてはアルコールに近い。つまり、服用することで気分が落ち着く効果が得られますが、飲みすぎると眠気が強まり、場合によっては意識がなくなったり呼吸が停止したりする恐れもあります。また、即効性がある分、作用時間は短く、薬が切れると再び強い不安に襲われるため、乱用・依存のリスクも高い。一度依存状態になると、薬が切れた際に強い離脱症状(いわゆる禁断症状)が出現し、重症の場合は痙攣や意識障害を起こして死に至る場合も。よって、非常に慎重に扱うべき薬であり、私自身、ザナックスを処方することはほとんどありません」