――自然の中に埋もれている音を探り出し、音楽へと昇華させていく。世界的なアーティストとして知られる彼が挑戦しようとしているプロジェクト「東京の音」とは、一体なんなのだろうか?
(写真/西田周平)
極寒のノルウェーの冬の環境を考えれば、氷は身の回りに当たり前に存在するモノで、その氷を叩いたりしながら音を出す遊びは誰でも思いつくかもしれない。しかし、そこから氷の音を探求し、楽器として削り出し、音楽へと昇華させていったテリエ・イースングセットの自然への愛と情熱は一言で言い表せるものではない。
「削り出しの氷の楽器で奏でる音楽なんて、単に奇をてらったキワモノだろう……」などと、ネガティブなイメージを持つ前に、一度聴いてみることを強くお勧めする。チェーンソーなどを使って氷原から氷を掘り出し、パーカッションなどの打楽器だけでなく、ホルンのような管楽器や弦楽器までも氷を削って作り出す。そして、そんな氷で作った唯一無二の楽器を使って演奏する彼のオーケストラは、世界各地からのオファーが絶えず、2017年のノーベル賞授賞式で演奏されていた音楽も、氷の楽器によるものだった。
日本でも07年に初めて北海道で公演を行い、15年にはユニクロのCMに出演している。
氷の音楽家として、また作曲家やパーカッショニストのイメージが定着してはいるが、自然の音の探究者としての活動にも積極的に取り組んでいる。そんな彼が今、日本ではじめたプロジェクトが「東京の音」だ。
あまり知られてはいないが、1964年の東京オリンピックの開会式の開始を告げたチャイムは、四国でとれる天然石「サヌカイト」であった。東京にもこのサヌカイトのように美しい音が埋もれている素材があるはずであり、その音を探し世界へ発信していくというのがこのプロジェクトである。「世界中をまわっているが、どの都市にも、どの街にもそこにしかない音があり、その埋もれた音を引き出し、音楽へと変えていく」というテリエの言葉通りに、冬・春・夏・秋の4回にわたって来日し、東京独自の音を探り、その素材を使った楽器でコンサートを開いていくという。