『闇金ウシジマくん』『ギャングース』『善悪の屑』――ヤクザや半グレ、復讐屋など「裏社会」の人々を過激に描いたマンガが続々と実写化され、人気を博している。マンガはなぜここまで残虐に進化していったのか……そこには『闇金ウシジマくん』の登場と、社会情勢が密接にかかわっているという。
『闇金ウシジマくん 42』(小学館)
ヤクザやマフィア、半グレ(暴力団に所属せずに犯罪を繰り返す集団)などのアウトローが活躍する、いわゆる「裏社会」系マンガ。日常生活では知ることのできない裏の世界をのぞき見した気分になれることから、若い男性を中心に時代を問わず高い支持を得ているジャンルである。その人気から実写化された作品も多く、古くは1992年、『難波金融伝・ミナミの帝王』(日本文芸社)が竹内力主演で映画化。いわずと知れたVシネマ界の金字塔シリーズとなった。近年では、ヤミ金をとりまく貧困と暴力を描いた『闇金ウシジマくん』(小学館)が山田孝之主演で幾度も映画・ドラマ化され、歌舞伎町のスカウトチームを舞台にした『新宿スワン』(講談社)も川村陽介主演でドラマ化、綾野剛主演で映画化されている。
これらの作品における人気の肝は、“過激な暴力描写”と“実社会を反映したストーリー”だろう。この2つの要素は、実際の裏社会の事件や流行を反映しやすい傾向にあるため、時代によって異なった特徴を持ち、中でも『闇金ウシジマくん』の登場前後で大きな変化が見られるのだという。その変遷をまずは追ってみたいと思う。
90年代初期~中期の裏社会系マンガにおいて、人気の題材はステレオタイプなヤクザと金融であった。例えば、96年に連載開始となった、『白竜』(日本文芸社)は、暴力団黒須組の若頭、白川竜也を主人公にしたヤクザモノで、黒須組のシノギとそれに絡んだ他組織・企業との抗争が描かれているのだが、「西都鉄道編」「医療ミス隠蔽編」など、現実の事件を素材にしたストーリーも描かれていた。そして金融モノといえば、大阪のミナミでトイチの高利貸し「萬田金融」を営む主人公・萬田銀次郎と債務者のやり取りを描く『難波金融伝・ミナミの帝王』である。同作でも、豊田商事事件などの実際の事件やバブル崩壊、商工ローンなど当時の社会問題が扱われている。このように当時から社会情勢が裏社会系マンガに影響を与えていたことは間違いないが、一方で、これらの作品で主題となっていたのは、裏社会にまつわる義理人情的な人間模様で、『難波金融伝・ミナミの帝王』では、「ワシに返済させるためにやったことだ」という体裁ながらも、萬田が弁済できない債務者の法律相談にのるエピソードが多くある。そのため、過激な描写が主だって扱われることはなかった。暴力描写についても変わったところで『白竜』の千枚通しで男性器を突き刺すなどといったものもあったが、基本的には銃やドス、あるいは角材で殴ったりと至ってシンプル。マニアックなマンガではもっと過激なシーンもあったかもしれないが、少なくとも大手~中堅出版社のマンガでは、あまり激しい暴力シーンは登場しなかったのだ。