――雑誌が売れないのは日本に限った話ではなく、米国でも多くの雑誌が資金難から身売りを検討しており、さらに名門「TIME」に関してはヤバい大富豪の後押しで売却されている。一体、なぜ老舗のニュース雑誌は買収に応じたのか? 日本とは違う米国のメディアの構造を見つつ、雑誌の未来を考察していく。
米国主婦層に支持されている雑誌「Better Homes and Gardens」(2018年1月号)。
昨年11月、「パーソン・オブ・ザ・イヤー」などでおなじみの、世界的ニュース雑誌「TIME」を発行するタイム社の身売りが判明し、世界中の出版界に衝撃が走った。売却先は「Better Homes and Gardens」など、ガーデニング系の雑誌を発行する大手出版社のメレディスで、全株式の売却価格は28億ドル(約3050億円)。今年3月までに買収手続きを完了させる予定だ。
この買収劇に大きな貢献を果たしたのが、チャールズ・コークとデイビッド・コークの、通称コーク兄弟。エネルギー、化学、日用品などさまざまな分野を手がける「コーク・インダストリーズ」を経営する両氏は、米国屈指の富豪兄弟というのが表の顔だが、裏では「アメリカンズ・フォー・プロスペリティ」という非営利団体をつくり、“ダークマネー”と呼ばれる開示情報のない不透明な資金を集めて、共和党候補者を徹底的に応援する多額のテレビ広告などを提供してきた。
さらに、同じく昨年、スティーブ・ジョブズの未亡人であるローリーン・ジョブズ氏が老舗オピニオン誌「The Atlantic」を買収したように、米国では近年雑誌などのメディアの売買が盛んだ。今、米国の雑誌業界で何が起きているのだろうか? 米国の現代政治とメディアの関係に詳しい、上智大学の前嶋和弘教授はこう説明する。