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更科修一郎の「批評なんてやめときな?」【34】

読者層二極化の文春、連載陣は世代間対立……幽霊、文春砲暴発の荒野で屍を漁る。

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――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった?生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉

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文春は文化を隠れ蓑にして墓穴を掘ったが、週刊誌の本分は文芸的美意識で偽善を排したスキャンダリズムと俗物主義だ。

 雑誌特集なら不景気話が定番だろうと思ったら「前回もやったのでもういいです」と言われたので、今回は景気のいい文春砲の話である。とはいえ、小室哲哉を引退へ追い込んだことで一気に潮目が変わったのだが、その原因は、週刊文春の読者層が二極化したことによる空気の読み違えだ。そして、スクープは浮動票を呼び込む撒き餌に過ぎず、雑誌のカラーを決めるのは連載陣だ。

 文春本来の読者層は「東京」基準の都市生活者であり、70~80年代サブカルチャー世代(50~60代)の読者をメインターゲットとしている。そのため、小林信彦、東海林さだお、伊集院静、阿川佐和子、亀和田武、近田春夫の連載陣はどれも20年以上続いている。ターゲットが明確なのでどの連載も安定しており、いつまでたっても斎藤十一イズムから抜け出せない古色蒼然の週刊新潮に大きな差をつけているが、雑誌は生物であるから永久不変ではいられない。そこで文春は90年代サブカルの新世代(30~40代)を読者に加えようとして、TVブロスや映画秘宝系の執筆陣が入ってきた。具体的には、宮藤官九郎、町山智浩、水道橋博士、春日太一、能町みね子などだが、この連中は上の世代に「子を認めない親」のような愛憎を抱いており、特に執筆陣最年長の小林信彦は、映画と芸事の批評で重複する町山、水道橋、春日たちから激しい憎悪を向けられている。唯一、アイドル女優好きの小林が「アイドルドラマの名手」として好意を示していた宮藤は態度を曖昧にしていたが、2019年のNHK大河ドラマ『いだてん』で「下賤な田舎侍どもが東京を破壊した」東京オリンピックを肯定する薩長政府のプロパガンダに与し、小林の落語史の重要人物である古今亭志ん生役に小林と犬猿の仲であるビートたけしを据えることで、ようやく敵対の立場を取った。脳梗塞で倒れた小林の死と同時に、文春は執筆陣の世代交代へ舵を切ろうとしていたのだろうが、小林はしぶとく連載復帰した。同世代の永六輔、野坂昭如、大橋巨泉らが立て続けに亡くなっていたから、次は小林だと思っていたのだろうが、他者の憎悪を生きる糧にしてきた偏屈無頼の「東京人」小林のしぶとさを新世代たちは見誤った。

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