今、日本のフリーメイソンは危機に瀕しているという。映画や都市伝説などでは陰謀論の首謀者にされ、世界を支配し、金融危機や格差社会に影響を与えているとささやかれていることが、その原因だ。だが世界的な組織である彼らをそうした“謎の陰謀組織”として片付けてしまって、本当によいのだろうか? 本稿では今年7月にフリーメイソン解説本を上梓した社会学者の橋爪大三郎氏が、日本フリーメイソンのグランドマスターと邂逅。日本社会の構造や宗教観など、あらゆる角度からフリーメイソンを分析。さらに、陰謀論と日本人についてまで解説する!
(写真/増永彩子)
1717年、イギリスにグランドロッジ【1】が誕生し、近代フリーメイソンの活動は始まった。誕生から300年の節目を迎えたフリーメイソンは今、変革の時を迎えている。2017年、日本グランドロッジの最高位であるグランドマスターに就任した竹田眞也氏はメイソンのオープン化を打ち出しており、施設見学会などを開催。秘密結社であるメイソンを、積極的に外に開こうとしているのだ。
そんなメイソン開放化政策の流れのもと、今回、社会学者であり、『フリーメイソン 秘密結社の社会学』(小学館新書)を上梓した橋爪大三郎氏との対談が実現。この対談から見えてきたのは、「陰謀を企む秘密結社」という巷間に流布するイメージとは180度異なったフリーメイソンの実態であった。
陰謀団体ではない!?世界を捉えるまなざし
(写真/増永彩子)
――フリーメイソンというと、オカルトや陰謀論の影響で、世界を牛耳る陰謀組織というイメージがいまだに大きな影響を持っています。しかし、橋爪先生が出版した『フリーメイソン 秘密結社の社会学』は、そのような見方を覆す一冊でした。まず、橋爪先生が本書を執筆したきっかけから、お話を伺わせていただきたいと思います。
橋爪大三郎(以下、橋爪) フリーメイソンといえば、名前なら誰でも知っています。でも、その内実を知っている人はほとんどいません。フリーメイソンの内幕を暴くと称する類いの本が山ほど出版されています。それを読むと、「陰謀団体」「世界を裏で操っている」と決まって書いてある。そんな怪しげな情報を、日本ではビジネスマンも政府職員も真に受けている。こういうことでは、欧米社会や国際社会を視る目が思い切り歪んでしまう。それは困るという思いから、本書を執筆しました。フリーメイソンには300年もの歴史があり、欧米社会の根幹をかたちづくる重要な組織です。それを「陰謀団体」とトンチンカンに理解しているようでは、まず、頭のなかみを疑われてしまう。
竹田眞也(以下、竹田) 私は81年にフリーメイソンに加わりました。その理由は、父がメイソンだったからです。小さい頃からロッジにも遊びに来ていたから、メイソンになることに対して抵抗もなかった。しかし、いざ加入するにあたってメイソンの評判を調べ、ありとあらゆる怪しい本の存在を知りました。書店では、怪奇小説と宇宙人コーナーの間にメイソン関連書籍が並んでおり、それらの本では、世界の悪いことは全部メイソンが原因とされている(笑)。メイソンの人々と親密に付き合ってきた自分の実体験とは、大きな乖離があったんです。なぜ、そのような陰謀論が跋扈しているかといえば、組織の内実が正しく知られていないからでしょう。だから、グランドマスター【2】という立場になり、まずメイソンの正しい情報を知らせようと思っているんです。