出版界のヒットメーカーが編集を手がけ、瞬く間に100万部を突破した『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)。糸井重里ら著名人も称賛のコメントを寄せ、メディアにも絶賛の記事が並んでいる。本稿では、そんな同書の裏にあるイデオロギーや時代性を、“サイゾー的”に批評、レビューしてみると……。
磯部 涼・音楽ライター
磯部涼・音楽ライター…1978年生まれ。中1殺害事件をはじめ陰惨な出来事が立て続いた工業地帯・川崎市川崎区のラップ・ミュージックからヤクザ、ドラッグ、売春、貧困、人種差別までドキュメントした新著『ルポ 川崎』(サイゾー)が、話題沸騰中!
BAD HOPも登場する『ルポ 川崎』(小社刊)は好評発売中!(写真/細倉真弓)
『君たちはどう生きるか』は要するに、人間がより良く生きることで、世界はより良くなっていく、ということを説いた本ですよね。そうした進歩主義的メッセージは、コペル君みたいな優等生には響くでしょう。しかし、僕が著書『ルポ 川崎』で取材したような不良には、どこまで届くのか……。あるいは、『ルポ 川崎』に登場するラップ・グループのBAD HOPは『クローズ』『ギャングキング』といったヤンキーマンガを小学生の頃から愛読しており、それが彼らにとっての『君たち~』だったといえます。
『君たち~』には、上級生にボコられる友達をコペル君が見捨てる場面がありますよね。コペル君はその経験の後、友達関係というごく小さな社会が自分にとって一番大切な世界だと気づき、「人間は分子である」という理論の下、それを世界の縮図としてとらえていきます。