出版界のヒットメーカーが編集を手がけ、瞬く間に100万部を突破した『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)。糸井重里ら著名人も称賛のコメントを寄せ、メディアにも絶賛の記事が並んでいる。本稿では、そんな同書の裏にあるイデオロギーや時代性を、“サイゾー的”に批評、レビューしてみると……。
辛酸なめ子・漫画家、コラムニスト
1974年、東京生まれ埼玉育ち。マンガ家・エッセイスト。皇室、スピリチュアル、女磨きなどをテーマに、数々の作品を発表。「週刊文春」をはじめ、多数の雑誌で連載記事を持つ。近著に『魂活道場』(学研プラス)など。
表紙の少年の切迫感漂う表情と、タイトルの重みで、手に取らずにはいられない本。寝込んでいる少年の部屋に、突然謎のおじさんが現れるシーンから始まります。精神世界系の名著、カルロス・カスタネダの『ドン・ファンの教え』(太田出版)に出てくるドン・ファンのような超人的存在が現れたのかと期待したら、母の弟、リアル叔父さんだとわかって少々がっかりしましたが、寝込みを襲われた少年は弱っていたためか、おじさんのメッセージに洗脳されてゆきます。「人間は分子みたいにちっぽけなもの」と、悟る少年。おじさんの手紙に「君の顔は、僕にはほんとうに美しく見えた」とあって、ショタコンかも……とBL的な展開を妄想しましたが、そういう方向にもいかず、極めて堅実でまじめな内容にとどまっています。
おじさんに「コペル君」というニックネームをつけられた少年は、学校でいじめられていた浦川くんと交流を持ち、彼が貧しい家で豆腐屋の手伝いをしている現実を知ります。そこで、すべての人間はつながっているという「人間分子の関係、網目の法則」を発見したコペル君。おじさんは社会で何かを生産している人々の素晴らしさ、立派な家に住んでいても実は値打ちがない人間がいることについて滔々と語ります。