――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。
今の日本で、否、2017年現在の文明社会で、これから結婚するカップルに言ってはいけない最凶の不適切ワードは、紛れもなく「子どもはいつ?」であろう。年齢的・身体疾患的・経済的な理由等で「子どもは欲しいが、不本意にも作ることができない」夫婦に対するデリカシーのなさは当然。加えて、積極的にDINKs(“意図して”子どもを作らない共働き夫婦)を選択する夫婦の人生観をも、土足で踏みにじっているからだ。
ただ、今はダイバーシティ万歳の21世紀だ。DINKsという家族の形態も、子どもがいる家庭のそれと等しく価値があり、尊重されるべき―。そんな話を10年ほど前、取引先の40代男性にポロッと話したことがある。すると、ほろ酔いの彼はこんな趣旨のことを言った。
「共働き夫婦が結婚して1~2年もたてば、仕事の愚痴以外に話すことも共同で取り組むこともなくなるから、早いとこ子どもを作って共同タスクと会話のトピックを追加補充するに限る」。当時の筆者は密かに彼を軽蔑したものだ。
しかし時は過ぎ、出版業界内における同業者DINKsのクソ高い離婚率を目の当たりにするにつれ、「実は“結婚、即、子作り”って、人間社会が長い歴史の間に確立した、完成度の超高いライフハックなんじゃ!?」などとつい考えてしまうこともしばしば。バツイチの彼らは言う。「相手のパーソナリティを掘り下げる系の会話は、交際時と結婚生活合わせて、いいとこ2~3年でネタ切れ。旅行やレジャーはイベントとして一時的に盛り上がるだけ。結果、日常生活で話す話題が仕事のことだけになった。うまくいっている時はいいけど、うまくいっていない時は壮大な愚痴大会になるので、2人でいても全然楽しくない」
無論、夫婦関係は会話だけによって成立しているわけではない。が、会話のない夫婦が円満だと言い切れるほど、我々はアーティスティックな存在ではなかろう。
そんな悲劇を避けるのが、件の取引先男性が言っていた「子どもの存在」というわけだ。日々変化・成長する子どもは、常に新鮮な話題を提供してくれる。パートナーへの人間的興味が最悪ゼロになったとしても、夫婦生活はギリ成立する。少なくとも子どもが自立するまでは。